最新記事

アメリカ社会

拡大する米国の白人至上主義 権利運動と同時に不寛容が高まる現実

2020年9月7日(月)16時20分

米国では今、黒人女性が初めて2大政党の将来の有力な大統領候補となる資格を手に入れ、人種の垣根を越えて「黒人の命は大事(BLM)」運動への支持が広がっている。だが同時に、白人至上主義者の団体がメンバー獲得や公共の場での活動に力を入れる光景も目にされる。写真は白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)のデモ。2017年7月8日、バージニア州シャーロッツビルで撮影(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

米国では今、黒人女性が初めて2大政党の将来の有力な大統領候補となる資格を手に入れ、人種の垣根を越えて「黒人の命は大事(BLM)」運動への支持が広がっている。だが同時に、白人至上主義者の団体がメンバー獲得や公共の場での活動に力を入れる光景も目にされる。

全ての人に同等の権利を保障するという理念を掲げてきた米国では、過去何十年もの間、この理念を支持する全国的な運動が展開される一方、その都度、一部から露骨な嫌悪が表明されるパターンが続いてきた、とロイターが取材した6人の学者や歴史家は話す。

つまり、マイノリティーの権利が拡大すると、不寛容も助長させてしまうというのが米国の現実だったのだ。

フロイド事件の反作用

アメリカン大学で二極化や過激主義の研究に取り組むシンシア・ミラーイドリス氏は「権利拡大運動が進展するたびに、われわれは真の平等に一歩ずつ近づく。だがその進展を脅威と感じる人たちから常に反発がある」と語る。

そうした変化で立場が危うくなると思う人々は権利拡大運動を阻止するために仲間集めに熱意を注ぎ、暴力や過激な政治宣伝を行使するのも辞さないこともあるというのが同氏の見方だ。

同氏によれば、2008年にバラク・オバマ氏が黒人初の大統領に当選した後、ヘイト団体の数が「膨張した」。これは1954年の「ブラウン判決(公立小学校での人種分離制度に対する最高裁の違憲判断)」のあとや、1960年代の公民権運動の盛り上がりに伴って白人至上主義団体の元祖とも言えるクー・クラックス・クラン(KKK)が再び活発化した事態を彷彿(ほうふつ)させる。

BLMに代表される今回の反人種差別運動の特徴は、以前よりもより多くの政治家や一般の白人層が支持している点にあると、歴史家や人権問題専門家はみる。

5月25日に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえ込まれて死亡した事件をきっかけに、米国だけでなく世界中で人種差別への抗議の声が広がった。8月23日に黒人男性ジェイコブ・ブレークさんが警官から銃撃されて重傷を負うと、抗議活動がさらに激化して暴力的な騒乱に発展する場面もあった。

センター・フォー・アメリカン・プログレス(CAP)のサイモン・クラーク上席研究員によると、米国は人種をまたぐ多元的で調和のとれた民主主義を生み出すという偉大な社会的努力を続ける国だが、BLM運動の最中に、こうした流れに対する反発が加速。これは政治的な反発であると同時に、暴力的で社会的な反発でもあるという。

白人至上主義団体の「国家社会主義運動(NSM)」と「シールドウオール・ネットワーク」はロイターに、メンバー数が増加しつつあることを明らかにした。参加を前向きに考えている多くの人は、武器所有の権利など、自分たちの自由に制約が課される不安から、BLM運動に否定的な見方をしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪政府が予算案発表、インフレ対策盛り込む 光熱費・

ワールド

米台の海軍、非公表で合同演習 4月に太平洋で=関係

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中