最新記事

アメリカ社会

拡大する米国の白人至上主義 権利運動と同時に不寛容が高まる現実

2020年9月7日(月)16時20分

NSMの「司令官」を自称するバート・コルッチ氏は、ある入会希望者が電話で、銃と弾丸をたくさん用意しており、自分の町の街頭に連中が繰り出してトラブルを起こそうとするなら、立ち向かうと話してくれたと打ち明けた。

人権保護団体アンチ・デファメーション・リーグ(ADL)が行った調査では、今年これまでに過激主義の政治宣伝に関連して起きた「騒動」は3566件と、前年同期の2074件を上回っており、その8割に白人至上主義者が関係している。

広がる温度差

別の白人至上主義団体の「パトリオット・フロント」は2月に首都ワシントンで示威行進を開催。ここ数カ月はアリゾナ州からバーモント州まで、各大学の敷地でこの団体の宣伝ビラやパンフレットが発見されている。複数の白人至上主義団体はこの夏、BLM運動の抗議デモ参加者へ銃を向けるよう呼び掛けるメッセージをフェイスブックに投稿し、7月にはフロリダ州とペンシルベニア州で対抗デモを行った。

ピュー・リサーチセンターが1年前に公表した調査からは、米国では人種の多様化が進行しているものの、全国民のおよそ6割をなお白人が占めていることが分かる。しかし同センターによると、11月3日の大統領選で有権者登録の資格がある国民のうち非白人の割合は約33%で、2000年の25%から上昇している。

もちろん一般国民の感覚としては、ロイター/イプソスの昨年の世論調査で明らかなように、多様性に肯定的だ。同調査では、全体の63%が「さまざまな文化の出自を持つ人がいる社会で生きるのが望ましい」との見方に賛成した。ただ、政党別で見ると、野党・民主党支持者はこの比率が78%に高まり、与党・共和党支持者は45%にとどまる。

BLMへの怒りの声

シールドウオール・ネットワークのメンバー、ビリー・ローパー氏は「米国が今ほど分断化されていて、なおかつ全ての側が緊迫している状況は見たことがない」と語る。

とはいえロイターが取材した学者や歴史家に言わせれば、以前にも似たような局面は存在した。

人権団体サザン・ポバティー・ロー・センター(SPLC)によると、米国で最も歴史が古く暴力的な白人至上主義団体が、南北戦争終了時に結成されたKKK。当時の連邦政府が打ち出した進歩的な政策の撤回を目指したKKKは、南部諸州で黒人への暴力行為を繰り返し、特に黒人が新たに獲得した参政権を否定した。

またSPLCの調べでは、公民権運動が始まったころに、南北戦争で奴隷制を支持した南軍(コンフェデラシー)の英雄をたたえる記念碑が南部で続々と建立された。昨年2月時点で、南部をはじめ米国内の公的な場所にそうした記念碑が少なくとも780体あり、このうち604体の建立は1950年以前だが、28体は1950-1970年に、34体は2000年以降だという。

2015年の最高裁が同性愛者たちの結婚を合憲とした判決の後は、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)の権利に異議を申し立てる訴訟や、権利を制限しようとする保守派の政治的な動きが改めて急増している。

NSMのコルッチ氏は、人種差別への抗議やBLM運動に対する企業および世論の支持が増えていった後で、NSMにも問い合わせの電話やメールが以前より多くなったと述べた。ロイターに対し「寄せられたメールの一部を読めば、(こうした運動への)まさに怒りの声を聞くことができる」と共感者の存在をアピールした。

(Katanga Johnson記者、Jim Urquhart記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・米ウィスコンシン州、警官が黒人男性に発砲し重体 抗議活動で外出禁止令
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中