最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

コロナで需要急減、「ピークオイル」が現実になる?

HAS OIL PEAKED?

2020年9月1日(火)11時35分
エドゥアルド・カンパネラ(スペインIE大学フェロー)

イラク南部バスラ近郊の西クルナ1油田(2019年5月) ESSAM AL SUDANI-REUTERS

<原油価格はどうなるか、エネルギー関連投資はどうなるか。パンデミックが石油の構造を大転換させるかもしれない、これだけの理由。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

石油業界は史上まれにみる激動期を経験した後、徐々に回復しつつある。今年3~4月には、需要の落ち込みと供給過剰、貯蔵能力の限界に強烈な投機的売買が重なり、一部の原油先物価格はマイナスに転落した。だが現在、需要は回復に転じ、供給は抑制されている。
20200901issue_cover200.jpg
だからと言って、危機を脱したわけではない。石油生産者にとって、最大のリスクは景気循環ではなく、業界の構造的問題だ。実際、ピークオイル(石油生産量が構造的な減少トレンドに転じる直前に最大化する現象)がついにやって来たという見方が強まっている。

1950年代以降、原油の生産は間もなく限界に達し、石油不足の時代が来るという説が何度も唱えられたが、いずれも空振りに終わった。こうした説は世界の原油埋蔵量と、物理的制約を克服する技術の力を過小評価する傾向があったためだ。

そして今、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がついにこのパターンを打ち破るかもしれない。ただし、今回のピークオイルは供給側ではなく、需要側の変化によってもたらされる可能性がある。

過去60年間、石油の需要はほぼ右肩上がりに増加してきた。現在の世界の需要は1960年の5倍近い。しかし、新型コロナは個人の行動や社会の優先順位を決定的に変えることで、石油需要の増加トレンドも変える可能性がある。

第1の変化の要因は、人々の移動の在り方だ。観光客の移動は数年後にはコロナ危機以前のレベルに戻りそうだが、ビジネス関係の移動はリモートワークの普及で激減する可能性がある。一部の推計によると、ユーロ圏では4分の1以上の仕事が自宅でこなせるという。

出張の相当部分もビデオ会議に取って代わられるかもしれない。一部の企業活動は世界的なサプライチェーンに対するショックを緩和するため、国内回帰が進む可能性もある。非熟練労働者への依存度を低下させる新しいデジタル技術の登場によって、生産を世界中に分散化させようとする企業の意欲も低下しそうだ。

そして、パンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)が大気の質に与えるプラスの影響は、将来的に環境重視の行動を強化する可能性がある。約40億人が自宅に閉じ籠もった4月、世界中で大気汚染が一気に改善したことは、政策担当者に二酸化炭素排出量を本気で削減するための明確な方向性を示唆した。

【関連記事】新自由主義が蝕んだ「社会」の蘇らせ方

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建

ワールド

対カナダ関税10%引き上げ、トランプ氏 「虚偽」広
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中