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エジプトにようやく届いた#MeTooの波 取材中に集団レイプされた米女性記者が語る変化の兆し

“Me Too” Comes to Egypt

2020年9月10日(木)18時10分
ララ・ローガン(調査報道ジャーナリスト)

2011年2月11日夜のカイロのタハリール広場 CHRIS HONDROS/GETTY IMAGES

<9年前、エジプト革命の取材中に集団レイプされたアメリカ人女性記者がつづるのは怒りではない。同じく性的暴行に遭った現地の女性たちが支え合い、被害を語り、規範に立ち向かう姿に見出す希望だ>

テントの中は熱気が籠もり、興奮に満ちていた。ホスニ・ムバラク大統領が辞任し、ナイル川を流れる水のようにずっと変わらないと思われていたエジプトの一時代が終わった。2011年2月のあの夜、首都カイロの街頭から見た政権崩壊の様子は圧巻だった。

男性ばかりのテントの中では、隣にいるエジプト人少年がしきりに私の注意を引こうとしていた。彼の父親にインタビューする間、何かと言葉を挟んでくる。彼の母親に会ってほしいのだという。米CBSの番組『60ミニッツ』のカメラが止まるとすぐ、彼は私の手にエジプトの紙幣(ムバラク政権の遺物だ)を握らせた。エジプトが変わったこの瞬間を忘れないように持っていて、と言って。

彼は私の手を取り、テントから連れ出した。私は今でもその紙幣を持っている。外は暗く、タハリール広場の一部には明かりがともり、何千もの人々が祝いと喜びの声を上げていた。まるでNFLのスーパーボウルで自分の応援するチームが優勝し、喜ぶ群衆を見ているようだった。

少年はテントからそう遠くない暗がりで立ち止まった。目が慣れると、女性の一団が身を寄せ合う見慣れた光景があった。多くは年配の女性で、目以外は全身を覆う黒いチャドル姿で地面に座っている。

私は少年としゃがみ込み、通訳を介して彼の母親と話をした。通訳の男性は優秀なエジプト人学生。当初からこの革命に関わっており、私が革命を理解する上で貴重なガイド役にもなってくれた。

母親としばらく話をした後、私は立ち上がった。通訳のほうを向いて、自分がこう言ったことは決して忘れられない。「彼女たちの姿を見れば、エジプトの自由はエジプト人女性の自由を意味しないことが分かる」。彼は私を見て、心配そうに言った。「通訳しないほうがいいですね?」

私は首を振り、「しなくていい」と言った。

性犯罪が抑圧の武器に

それから1時間もしないうちに、私はタハリール広場のテントから程近い場所で土まみれになり、命懸けで戦っていた。200~300人の暴徒に集団レイプされ、肛門を犯され、殴られたのだ。通訳の彼は力の限り、助けを求めて叫んでいた。

その後、私はある学術研究でエジプト社会における性的暴行や暴力、レイプについて読み、こうした恐ろしい犯罪が女性の抑圧という社会統制の武器として利用されていることを知った。

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