最新記事

性犯罪

エジプトにようやく届いた#MeTooの波 取材中に集団レイプされた米女性記者が語る変化の兆し

“Me Too” Comes to Egypt

2020年9月10日(木)18時10分
ララ・ローガン(調査報道ジャーナリスト)

magw200910_EGY2.jpg

エジプトの人々への怒りはないと語るローガン CHRIS HONDROS/GETTY IMAGES

エジプトの多くの女性にとって、男性の同伴なしの外出は推奨されないだけでなく、不快な経験になることも知った。スーダンのような国から来た単純労働者の女性がカイロで公共交通機関に乗れば、トラウマを負うことになる。反撃する力もなく、何らかの正義も期待できないまま毎日セクハラの試練にさらされるのだから。

カイロの女子大生にとって安全な場所は、授業に向かう車の中だけだ。大学の駐車場に着けば、もう安全な空間は確保できない。

もちろん国家や警察、イスラム教徒、家族がエジプトの女性たちに責任を負わせていることも私は学んだ。不適切な視線を集めないよう、きちんとした服装をするのが女性の務めだとクギを刺す街角のポスターについての記事を読んだことがある。「被害者を責める」のは、アメリカを含む多くの社会でおなじみの風潮だ。だが幸いアメリカでは、以前よりそうした事態が随分減っている。

当局を動かすネット告発

あの夜、タハリール広場でレイプされ、性的暴行を受けた女性は私だけではない。被害者の多くはエジプト人だったが、彼女たちの事件が世界で報道されることはなかった。私は、あの夜にレイプされたアフリカ人女性がいることを知っている。本人たちから手紙をもらったからだ。彼女たちの恐ろしい経験は、今でも私の心の中に残っている。

それでも私は、エジプトの女性たちが最近、ソーシャルメディアで#MeToo運動を展開し、性的暴行の被害を語り、互いに支え合う姿に希望を感じている。彼女たちの反乱をきっかけに、当局は7月にエジプト人学生を逮捕し、3件の強制わいせつ容疑で起訴した。これは、エジプト女性の声が影響を持ち始めていることの証しだ。

エジプト人、特に男性に会うたびに、彼らは私に謝罪し、エジプトの男性がみんな「そうではない」と断言する。私の答えはいつも同じ──どこにでも良いことと悪いことがあるのは分かっているし、エジプト人を責めるつもりはない、素晴らしい人々だと知っている。

私は一瞬たりとも怒りを感じたことはない。その代わり、希望を持っている。数々の不正や虐待の中で生きているエジプトの人々にとって、潮目は変わりつつある、と。

何世代にもわたり、女性の在り方を定義してきた規範に立ち向かう勇敢な彼女たちに、自分は1人ではないこと、これは価値ある戦いだと知ってほしい。これからは男女を問わず、勇気ある人々が共に戦っていくはずだから。

(筆者はフォックス・ネーションの『ララ・ローガン・ハズ・ノー・アジェンダ』の司会者。2011年、エジプト取材中のレイプ被害をCBSが発表し、世界に衝撃が走った)

<2020年9月15日号掲載>

【関連記事】運転もさせないほど女性軽視だったサウジ、次の手はセクハラ対策
【関連記事】インドで相次ぐ性的暴行事件 誰も語らない「少年被害」

【話題の記事】
大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出
中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される
中国は「第三次大戦を準備している」
ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死

20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-テスラ、中国から「サイバーキャ

ワールド

ボリビア大統領、再選立候補せず 分裂与党の候補一本

ワールド

コバルト市場、30年代初めに供給不足に転換へ

ビジネス

テスラ取締役会、マスクCEOの新たな報酬案を特別委
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中