最新記事

民主化

拡大するタイの反政府デモ 政権退陣から王室改革まで要求

2020年8月18日(火)10時18分

タイで政権退陣や憲法改正、新たな選挙を求めるデモが行われ、参加者は1万人以上と、現首相による2014年のクーデター以降、最大規模となった。バンコクで撮影(2020年 ロイター/Soe Zeya Tun)

タイで16日、政権退陣や憲法改正、新たな選挙を求めるデモが行われ、参加者は1万人以上と、現首相による2014年のクーデター以降、最大規模となった。

一部の参加者は、最近までずっとタブーの話題だった王室改革も求めている。

デモの発端

反政府デモの発端は昨年末、裁判所が新未来党の党首の議員資格をはく奪したことだった。新未来党は、軍事政権トップだったプラユット首相率いる政権に最も声高に反対する政党で、若者から強い支持を集めている。

新型コロナウイルスの感染拡大抑止策により、抗議活動は主にオンラインで進んでいたが、7月半ばに街頭行動を再開。以来、学生団体主催のデモが、ほぼ連日実施されている。

16日のデモには学生が大勢集まったが、年長者の参加も多かった。

デモ参加者の要求内容

主な要求は、1)プラユット政権の退陣、2)新憲法の策定、3)抗議活動に対する嫌がらせ行為の中止──の3つだ。

しかし、一部の学生は、ワチラロンコン国王を頂点とする王室の改革についても10項目の要求を掲げている。具体的には国王が持つ憲法上の権利や、宮殿の財宝や軍事力を巡る権限の抑制を要求。王室の政治関与中止も望んでいる。ただ、王室廃止は求めていないことも強調している。

いかなる団体によるものであれ、国民が公にこうした王室改革を求めたことは、過去何十年にもわたって前例がない。

怒りの原因

抗議者らは、プラユット氏が14年のクーデターで得た権力を、自らに有利なルールで昨年実施した選挙によって維持したことを批判。プラユット氏は反論している。

政権の腐敗追及を巡る怒りや、エリート層が犯罪行為への刑事罰を逃れているとの感情も要因。新型コロナ禍で観光産業が崩壊状態となり、貧困にも拍車が掛かかっている。

カンボジアでは、タイの反政府活動家が失踪。こうした失踪者は近年、これで9人に及んだことも怒りをあおっている。

多くの若者は、権力と伝統への服従を強調する支配層への不満も口にしている。憲法は王室について「崇拝の地位に君臨」すると表現している。

政府の対応

政府は、国民による不満の表明は認められていると表明。プラユット首相はデモ参加者との対話を模索すると述べた。

しかし、既にデモ指導者の学生3人が逮捕され、後に保釈された。警察は、さらに12人に対する逮捕状を出したとしている。

プラユット氏は、国王から不敬罪を用いないよう求められたと述べた。不敬罪を適用すれば、王室を侮辱した者に最長15年の禁固刑を科すことができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中