最新記事

タイ

聖域「王室」にも迫る タブーに挑むタイ若者の民主活動

2020年8月17日(月)11時46分

その後、新型コロナウイルスを理由にタイがロックダウン(都市封鎖)に入り、抗議行動は中断した。

だが、スマートフォンや自宅に持ち帰ったノートパソコンを通じて、活動家たちはオンラインで圧力をかけ続け、君主制への疑問も高まっていった。

3月、タイ語版ツイッターでは、「#whydoweneedaking?(なぜ我々に国王が必要なのか)」というハッシュタグが100万回以上も使用された。フェイスブックでも、君主制を揶揄することの多いタイ語のグループが85万人以上のユーザーを集めている。

抗議行動参加者たちが、再び大挙して街頭に姿を見せたのは7月18日だった。新型コロナによる観光産業の崩壊による経済的な痛手に対する怒りと、亡命中のタイ人活動家が拉致されたと見られる件が刺激になった。これは複数の失踪事件の最新の例で、人権擁護団体によれば、ワンチャレアーム・サトサクシット氏(37)が6月にカンボジアで正体不明の襲撃者によって連れ去られ、その後目撃されていない。タイ政府・軍は関与を否定している。


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

一枚岩ではない抗議行動

一部のアナリストは、最近の若者主導の抗議行動は、1970年代の学生による民主化要求運動に似ていると言う。

タイでは、軍による政治介入が繰り返し行われてきた。1932年に絶対王政による支配が終って以来、クーデターの成功例は13回を数える。1973年と1992年には、軍政指導者による弾圧により抗議参加者が殺害されたことを受けて、事態沈静化のためにプミポン国王が介入している。

タイの若い世代も一枚岩ではない。民主派の抗議行動に対抗して、規模は劣るものの、政権を擁護する王党派による独自の集会も行われている。

元専門学校生で王党派のトトサポル・マヌンヤラットさんは、「タイ人の多くは、君主制に対する攻撃的な言動に眉をひそめる」と言う。彼は国王への敬愛の念から、バンコクでの反抗議行動に参加したという。

アナリストのあいだには、深い分断は政権にとってジレンマを生んでいるという声もある。

インターナショナル・クライシス・グループの東南アジア担当上級アナリスト、マシュー・ウィーラー氏は「批判の動きを弾圧すれば、反撃を受けるリスクがある」と語る。「だが放置しておけば、タブーの壁が崩れるリスクがある」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


20200825issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中