聖域「王室」にも迫る タブーに挑むタイ若者の民主活動
王室と軍の密接な関係
ワチラロンコン国王はドイツで過す時間が長いが、タイ国内では至るところで同国王の肖像が見られる。タイの保守派の多くに言わせれば、王室と軍の絆が国家の安定を保障している。軍は、タイにおける最高の道徳的権威としての王室の地位を強く支持しおり、軍トップは昨年、君主制を擁護する政権のみを支持するという前例のない宣誓を行った。
アナリストのなかには、軍がタイの政治における突出した役割を正当化するために王室との密接な関係を利用しているという声もある。元軍司令官のプラユット首相は3人の退役軍人を閣僚ポストに任命しており、上院の議席の3分の1以上は現・元軍将校で占められている。
一方、2016年の即位以来、現国王は憲法上の権力を強化している。アノン氏はスピーチのなかで、民主主義と相容れない国王の権力獲得として2つの例をあげた。すなわち、2016年にプラユット政権が陸軍の2つの部隊を国王直属としたこと、2017年に王室の膨大な資産を国王個人の名義に移したことである。
3日の抗議行動を主催した1人である学生タナポル・パンガムさん(27)は、「確かに怖いが、必要なことについて声を上げなければ、問題が続いていくだけだ」と語る。
学生の抗議グループは多数あるが、王室を公然と批判しているのは今のところ一握りに留まっている。だが、軍政トップとしての過去があるプラユット首相の続投を許す結果となった不正が疑われる昨年の選挙の後、変革を求めるという点で学生グループは一致団結している。
批判派によれば、軍が定めたルールにより選挙結果はあらかじめ決められており、プラユット氏にかなりの票が自動的に集まることになっていたという。プラユット首相は、選挙は公正に行われたと述べている。
タイ学生連合の代表者であるジュタティップ・シリカンさん(21)は、「我々の中心的なイデオロギーは、民主主義の推進だ」と話す。同グループは複数の抗議行動の開催に参加しているものの、君主制への批判には至っていない。
抗議行動が始まったのは、裁判所が野党「新未来党」の活動を禁止した今年初め頃からである。新未来党は、軍が国内政治を支配する状態を終らせることを求める主張に対する若い世代の幅広い支持を受け、知名度が低かったにもかかわらず、各地の選挙で第三勢力として予想外の躍進を見せた。
2月、バンコクの大学キャンパスで行われた初期の抗議行動の1つで掲げられたプラカードには、「ドイツのお天気はいかが?」と書かれていた。穏当な問いかけに見えるが、ほとんどのタイ国民にとっては、バンコクよりもバイエルンで長い時間を過すワチラロンコン国王への当てこすりであることは分かる。
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