最新記事

タイ

聖域「王室」にも迫る タブーに挑むタイ若者の民主活動

2020年8月17日(月)11時46分

王室と軍の密接な関係

ワチラロンコン国王はドイツで過す時間が長いが、タイ国内では至るところで同国王の肖像が見られる。タイの保守派の多くに言わせれば、王室と軍の絆が国家の安定を保障している。軍は、タイにおける最高の道徳的権威としての王室の地位を強く支持しおり、軍トップは昨年、君主制を擁護する政権のみを支持するという前例のない宣誓を行った。

アナリストのなかには、軍がタイの政治における突出した役割を正当化するために王室との密接な関係を利用しているという声もある。元軍司令官のプラユット首相は3人の退役軍人を閣僚ポストに任命しており、上院の議席の3分の1以上は現・元軍将校で占められている。

一方、2016年の即位以来、現国王は憲法上の権力を強化している。アノン氏はスピーチのなかで、民主主義と相容れない国王の権力獲得として2つの例をあげた。すなわち、2016年にプラユット政権が陸軍の2つの部隊を国王直属としたこと、2017年に王室の膨大な資産を国王個人の名義に移したことである。

3日の抗議行動を主催した1人である学生タナポル・パンガムさん(27)は、「確かに怖いが、必要なことについて声を上げなければ、問題が続いていくだけだ」と語る。

学生の抗議グループは多数あるが、王室を公然と批判しているのは今のところ一握りに留まっている。だが、軍政トップとしての過去があるプラユット首相の続投を許す結果となった不正が疑われる昨年の選挙の後、変革を求めるという点で学生グループは一致団結している。

批判派によれば、軍が定めたルールにより選挙結果はあらかじめ決められており、プラユット氏にかなりの票が自動的に集まることになっていたという。プラユット首相は、選挙は公正に行われたと述べている。

タイ学生連合の代表者であるジュタティップ・シリカンさん(21)は、「我々の中心的なイデオロギーは、民主主義の推進だ」と話す。同グループは複数の抗議行動の開催に参加しているものの、君主制への批判には至っていない。

抗議行動が始まったのは、裁判所が野党「新未来党」の活動を禁止した今年初め頃からである。新未来党は、軍が国内政治を支配する状態を終らせることを求める主張に対する若い世代の幅広い支持を受け、知名度が低かったにもかかわらず、各地の選挙で第三勢力として予想外の躍進を見せた。

2月、バンコクの大学キャンパスで行われた初期の抗議行動の1つで掲げられたプラカードには、「ドイツのお天気はいかが?」と書かれていた。穏当な問いかけに見えるが、ほとんどのタイ国民にとっては、バンコクよりもバイエルンで長い時間を過すワチラロンコン国王への当てこすりであることは分かる。


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インフラ攻撃を5日間延期、協議継続とトランプ氏表明

ワールド

レバノン地上戦、イスラエル民間人初の死者 自軍の誤

ビジネス

原油高と新興市場減速、中国経済の重しに=ゴールドマ

ビジネス

NYで着陸機と消防車両衝突、操縦士2人死亡 ラガー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 3
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 10
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中