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台湾の力量

台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼

HOW TAIWAN BEAT COVID-19 WITH TRANSPARENCY AND TRUST

2020年8月3日(月)07時05分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

政府との強い信頼関係が成功のカギに(自由広場で開かれた天安門事件から30年の追悼集会) LIN YEN TING-SOPA IMAGES-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<世界に感染症封じ込めの模範を示し、各国を支援する姿勢を示した台湾。どうやってそれを可能にしたのか。「この成功は偶然ではない」と、蔡英文総統は言う。本誌「台湾の力量」特集より>

台湾で新型コロナウイルスの感染者第1号が見つかったのは今年1月21日のこと。中国の武漢で働く台湾人女性が帰郷した際、台北郊外の桃園国際空港で発熱などの症状を訴え、検査により、翌日に感染が確認された。

20200721issue_cover200.jpg同じ日、アメリカでも最初の感染者が確認されていた。日本ではその5日前だ。ただし、いずれも中国籍の人。「中国籍」以外では、この台湾人女性が患者第1号だった。

あれから半年。日本は今も新型コロナウイルス感染症による死亡率では世界の最低水準にあるが、感染者は7月10日の時点で2万人を超えている。アメリカでは感染者が爆発的に増えて320万人を突破、既に13万人以上が死亡している。

台湾は、中国大陸から海峡を挟んで約150キロしか離れていない。台湾が中国本土と同様に新型コロナに汚染され、世界で2番目のアウトブレイク(感染症の爆発的拡大)に見舞われる可能性は十分にあった。

しかし、そうはならなかった。新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るっているが、台湾では7月11日段階でも感染者はわずか451人、死者は7人にとどまる。感染者の大半は海外から帰還した台湾人で、4月12日以降は島内での新規感染者は出ていない。

こうして世界に感染症封じ込めの模範を示した台湾は、コロナ禍に苦しむ各国を積極的に支援する姿勢を打ち出し、自身の国際的なイメージの改善につなげようとしている。しかし「台湾は中国の一部」と主張する中国共産党は、台湾とその2300万の住民を国際機関からも国際協力からも排除する決意を固めている。その先に見据えるのは、もちろん台湾の併合だ。

決め手となった初動の早さ

「この成功は偶然ではない」。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は4月に、米タイム誌への寄稿でそう述べた。「医療専門家や政府、民間、社会全体の努力が合わさって強固な防御ができた」

台湾は、まだウイルスの正体が分からないうちから感染対策に着手していた。昨年12月31日、専門家向けのインターネット掲示板をチェックしていた台湾CDC(疾病対策センター)の医師が、李文亮(リー・ウェンリエン)という名の中国人医師のメッセージのスクリーンショットに気付いた。そこには武漢の海産物卸売市場で発生した「SARS(重症急性呼吸器症候群)の7症例」が詳述されていた。

台湾当局はその日のうちにWHO(世界保健機関)に電子メールを送り、武漢の患者が「治療のために隔離」されたことへの注意を促し、それは「ヒト・ヒト感染」の可能性が疑われるからではないかと指摘した。しかしWHOは動かなかったと、台湾側は主張している。

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