中国経済は悪化していたのに「皇帝」が剛腕を発揮できた3つの理由
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<中国式の社会市場経済(中国模式)は、習時代になるまで成功を収めていた。その後経済は悪化したが、個人情報が取り放題の中国はAIで世界をリードするかに思われた。そんなときに新型コロナウイルス問題が起こり、ジャーナリスト近藤大介氏の仮説は揺らぐことになる。論壇誌「アステイオン」92号は「世界を覆うまだら状の秩序」特集。同特集の論考「習近平の社会思想学習」を2回に分けて全文転載する>
この原稿を執筆している二〇二〇年四月現在、日本のニュースは新型コロナウイルス関連一色と言っても過言ではない。私が日々、インターネットで見ている中国の中央電視台(CCTV)も同様だ。欧米諸国も含めて、世界中がコロナウイルス禍に慄(ふる)えている。
この降って沸いたような騒動によって、私のところにもテレビやラジオ、ネット番組の担当者から、「中国の専門家として話をしてほしい」と、よく声が掛かるようになった。そして私がスタジオへ行くと、いつも「ウイルスの専門家」とペアで出演させられる。これまでウイルスの専門家など、一人の知り合いもいなかったのだが、おかげで彼らのユニークな世界観を拝聴できた。
一例を挙げると、中国広東省深圳はこの頃、「アジアのシリコンバレー」と称されている。隣接する香港のGDPを二〇一八年に追い越した躍動著しい深圳を、私はこのところ毎年訪問。深圳を含む広東省、もしくは広東省を含む中国南部が、今後のアジア経済、ひいては世界経済のセンターになっていくのではないかという「仮説」を立てていた。
ところが、ウイルスの専門家たちに一笑に付されたのである。彼ら曰く、
「ウイルス学的に見ると、世界で最も危険な地域が、アフリカの一部と中国の南部だ。エボラ出血熱やアフリカ豚コレラはアフリカ発で、SARS(重症急性呼吸器症候群)と今回の新型コロナウイルスは中国南部発。そんな地域が、世界経済の中心地になんか、なるわけないでしょう」
こう指摘されて、ぐうの音も出なかった。かくして私の「仮説」は、分が悪くなってしまった。同時に、今回の新型コロナウイルス騒動によって、もう一つ分が悪くなってきている「仮説」がある。それは、「中国模式」(チャイナ・モデル)が、二一世紀の人類の新たな国家統治システムの規範になるという「仮説」である。こちらの「仮説」は私が立てたものではなくて、習近平時代になって、中国の政官学界からよく聞く話である。
以下この「仮説」について、順を追って論証を進めたい。