最新記事

中国

香港国安法を「合法化」するための基本法のからくり

2020年7月20日(月)11時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そしてその改正権は全人代にあるので、5月22日に開幕した全人代で改正案が提起され、閉幕日の28日に議決された。

そこに持って行くための中国共産党中央委員会(中共中央)の会議は2019年10月28日から31日まで開催され(四中全会)、そこで全人代に諮ることが決議されている。

中共中央会議のトップにいるのは言うまでもなく習近平・中共中央総書記である。

こうして順序よく「合法的」に香港国安法は制定されたのである。

筆者はこれを「基本法に埋め込んである爆弾」と称している。

そしてこれらの法律は、まるで忍者のからくり細工のように、すぐには気づかれないように巧妙に仕組んであるのである。

最強のカードはまだ残されている

香港基本法第18条には以下のような文言がある。

――全人代常務委員会が戦争状態の宣言を決定した場合、または、 香港特別行政区内で香港特別行政区政府が制御し得ない、国家の統一および安全に危害を及ぼす動乱が発生して、香港特別行政区が緊急事態に陥ったと決定した場合には、中央人民政府は命令を発して、全国レベル関係法を香港特別行政区において施行することができる。

つまり、いざとなったら香港を「特別行政区として扱わない」ということが香港基本法に、明確に盛り込まれているのである。

今般の香港国安法は、その一歩手前で踏みとどまって第19条を適用して非常事態を回避したということができる。

香港基本法は1990年4月に発布されたが、その10ヵ月前の1989年6月4日に天安門事件が発生し、香港側代表の民主人士は基本法起草委員を辞任したし、天安門事件に抗議した李柱銘氏等の民主派委員は全人代常務委員会によって解任されている。その意味で起草委員会に残ったのは保守的で親中的な人物が多かった。

結果、イギリス統治下にあった香港側の意見が大きくは反映されない側面もあっただろうが、それにしてもイギリス統治下の香港政府が、よくもこのような内容の香港基本法を認めたものだと言わざるを得ない。あるいは気が付かないように北京側が巧妙に進めたのかもしれない。

まちがった解釈の横行

このような論理的分析をせずに、感覚的あるいは情緒的に「一国二制度は崩壊した」という類のコメントを発表したがる論者が多く、メディアも「まちがった感覚を持っている視聴者や読者に受ける報道」しかしないので、日本国民の多くはそういった言い回しに感覚がマヒして、「中国が一国二制度を崩壊させた」と信じ込む人が多くなっている。

そのような論拠で中国を攻撃しても、中国としては「どこに一国二制度が無くなっているんですか?」と反論してきて「中国大陸は社会主義制度を実施しているし、香港は資本主義制度を実施していますが・・・」とせせら笑うだけだろう。

つまり、そのような論理では中国に勝てないのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:戦略投資、次期中計で倍増6000億円

ワールド

トランプ氏、イスラエル首相と来週会談 ホワイトハウ

ビジネス

ロビンフッド、EU利用者が米国株を取引できるトーク

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中