最新記事

動物

韓国、水族館のイルカショーで虐待議論 「素人のお客」乗せてストレス死も?

2020年7月13日(月)21時15分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

ソウルではショーに出演していたイルカを放流

コジェ・シー・ワールドがここまで問題視されるのは、韓国内でのイルカについての動きも関係している。2009年、水族館のほかに遊園地や動物園も併設している総合レジャー施設「ソウル大公園」でイルカショーに出演していたバンドウイルカの"ジェドリ"は、不法に捕獲され連れてこられたという指摘から、当時のソウル市長パク・ウォンスンの判断で2012年3月に放流決定が下された。

"ジェドリ"は、野生の生活に戻る訓練を経て、翌年2013年に済州島沖で放流された。また、同じソウル大公園で飼われていたほかのハンドウイルカ2頭も、2017年5月に済州島に移動され環境に慣れさせた後に放流されている。

その後2018年3月に韓国環境省は、「残忍な方式で捕獲された生物の輸入及び、CITES協約付属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに属した生物の輸入を禁止する」という野生法改正案を発表した。これにより、現在も海外から韓国へのイルカの輸入は実質的に不可能になっている。

韓国内のイルカ、かつては日本からも

韓国の海洋環境団体Hot Pink Dolphinsによると、韓国はそれまで、「日本からのイルカ輸入国ランキング」で中国に続き3〜4位に位置していたという。これは、韓国内の輸入クジラ類全体の70%にも上る。お隣同士の国であり、移動距離も少なくて済むことから、多くのイルカたちが日本から輸入されてきたようだ。

世界の動きはどうなっているだろう。WAP(世界動物保護協会)の2019年の発表によると、世界58カ国355の施設を調べたところ、336カ所でイルカ飼育がおこなわれている。そのうち93%がイルカを使い一般人との催しを行っていて、内容は写真撮影(75%)、イルカと泳ぐ(66%)、イルカセラピー(触れ合い、23%)などだという。特にメキシコとカリブ海のリゾート地で多くおこなわれており、観光客の3人に1人はイルカ調教師体験に参加し、4人に1人がイルカに乗ったり水中で触れ合う体験をするというデータが発表された。

このようにいまだにイルカショーは多くの施設で行われているが、動物愛護をめぐり議論は強く、大手旅行予約サイトであるトリップアドバイザー、ブッキングドットコムなどは、すでにこのようなイルカを使ったツアー予約の取り扱いを中断しているという。

動物の輸出入は、今回のような水族館だけでなく全世界の動物園でもおこなわれている。元々野生の動物を檻に閉じ込めていること自体が虐待だという見方もあれば、一方で絶滅の危機にある動物の繁殖に成功している動物園もある。毎日おいしい餌をもらいけがや病気をしてもすぐ看病してもらえる生活と、自由に野生の世界を生きるのではどちらが幸せか、一概には言えないかもしれない。
 
しかし、今回のシーワールドの件では、偶然とは言い難い数の死亡率が公表されている。韓国の市民団体が指摘するように、これがショーや一般人とのふれあいイベントによって起こっているのなら、シーワールドは金儲けよりも命を守ることを優先させるべきである。


【話題の記事】
・東京都、13日の新型コロナウイルス新規感染119人 累計で8000人突破
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・やはり空気感染はあった? だとすれば対策の強化が必要
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.


20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度予算案、強い経済実現と財政の持続可能性を両

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教

ワールド

ホワイトハウスの大宴会場計画、1月にプレゼンテーシ

ビジネス

中国の24年名目GDP、134.8兆元に下方改定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中