最新記事

温暖化ガス

海洋メタンの4分の1が存在する南極から、メタンの活発な放出が確認された

2020年7月30日(木)16時30分
松岡由希子

メタン放出は地球温暖化を加速化させるのか...... Andrew Thurber/Oregon State University

<南極・ロス海の水深10メートルの地点から、メタン湧出とみられる幅1メートル、長さ70メートルの微生物マットが発見された......>

海洋や堆積物に含まれるメタンの多くは、大気中に放出される前に微生物によって消費されている。しかしこのほど、南極で初めて、活発なメタン湧出が確認された。

南極の水深10メートル地点でメタン湧出が発見された

米オレゴン州立大学の研究チームが2020年7月20日に学術雑誌「英国王立協会紀要」で発表した研究論文によると、2011年、米国の海洋研究機関「モスランディング・マリンラボラトリーズ」の研究員が南極・ロス海のマクナード入江にある水深10メートルの「シンダー・コーン」で、メタン湧出とみられる幅1メートル、長さ70メートルの微生物マットを発見した。この地域は1960年代半ばから生態系の研究が継続的に行われてきたが、2010年までに、このような微生物マットは確認されていない。

研究チームは、メタン湧出が発見された1年後にあたる2012年と5年後にあたる2016年に現地で採集したサンプルを解析した。その結果、2012年時点では微生物マットがメタンを吸収した形跡はなく、2016年時点でも、メタンが微生物マットによって十分に吸収されず、放出していることがわかった。メタンを消費する微生物が、このメタン湧出に現れるまでに5年かかっていることも確認されている。

研究論文の筆頭著者でオレゴン州立大学のアンドリュー・サーバー准教授は、英紙ガーディアンの取材に対して、「微生物によるメタンの消費の遅れは、重要な発見だ。微生物がメタンの吸収源になるまでに5年以上を要し、それでもまだ海底からメタンが放出していることは、けして好ましいことではない」と述べている。

二酸化炭素の25倍もの温室効果をもたらす

メタンは、二酸化炭素に比べて25倍もの温室効果をもたらす。また、海洋のメタンの25%以上が南極に存在するとみられている。このメタンが漏れた場合の地球への影響をこれまで多くの科学者が警告してきた。また、2018年にNASAは、北極圏での氷の融解がメタンガスの放出を促し、地球温暖化を加速化させる要因になると警告していた。一連の研究成果は、南極におけるメタン循環の仕組みや、他の地域のメタン循環との違いを解明する第一歩として評価されている。

英ブリストル大学の氷河生物地球化学者ジェマ・ウェイダム教授は、英紙ガーディアンで「南極や南極氷床は、地球のメタン循環を解明するうえで"巨大なブラックホール"だ。氷床下には大量のメタンが存在するとみられているが、『氷床融解の引き金となるおそれのあるメタンの放出のスピードに比べて、微生物がメタンの吸収源になるまでのタイムラグがどれくらい大きいのか』という謎が残されている」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中