最新記事

東南アジア

比ドゥテルテ長男、マニラの空港「ニノイ・アキノ」の名称変更を提案 大統領選めぐる動きか

2020年6月26日(金)19時31分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンの現代史と結びついた「ニノイ・アキノ国際空港」の名は変わるのか? REUTERS/Romeo Ranoco

<アジアの現代史が反映された国際空港は、21世紀の政治によって塗り替えられるのか>

フィリピンのドゥテルテ大統領の長男で国会下院副議長のパオロ・ドゥテルテ議員が、下院議会に対して首都マニラの玄関口である「ニノイ・アキノ国際空港(NAIA)」の名前を変更するべきとする法案を提出したことが明らかになった。フィリピンの主要メディアが6月25日に一斉に伝えた。

他の下院議員との連名で提出された「空港名称変更」議案によると現在の空港名を「フィリピン国際空港」と改めることを求めている。これは空港名に冠された「ニノイ・アキノ」という個人名を排除したい意向とされ、ドゥテルテ大統領の思惑のほか、2022年に予定される次期大統領選、さらにはマルコス元大統領一族との関係など、法案の提案理由を巡って様々な憶測が飛び交う事態となっている。

パオロ議員が同僚のマリンドケ、ベラスコ議員らと共同提出した「下院法案7031号」はフィリピン最大の国際空港であり、国際社会からの玄関口でもあるNAIAについて、「個人名ではなく、フィリピン国民が国に誇りをもてる名前に改正するべきだ」とし、さらにフィリピン人の母国語であるタガログ語を使用することで国民が親しみをもてるようにもするべきだとして名称変更を提案。新名称を「Paliparang Pandaigdig ng Pilipinas(フィリピン国際空港)」にするよう提案している。

「Paliparang(パリパラン=空港)」「Pandaigdig(パンダイティグ=国際)」「ng(ナン=英語のofに相当)」「Pilipinas(ピリピナス=フィリピン)」である。

「ニノイ・アキノ」はエドサ革命の象徴

「ニノイ・アキノ国際空港(NAIA)」の名称について説明するためにはフィリピンの現代史をひもとく必要がある。1970年代、強権恐怖政治を進めていたマルコス大統領(当時)は、独裁政権下で反政府組織や学生運動を封じ込めるため1972年に戒厳令を布告。さらに国民に人気がある政治家だったベニグノ・ニノイ・アキノ・ジュニア前上院議員を逮捕・投獄を経て米国に追放した。そしてニノイ・アキノ氏は1983年8月12日にマニラに戻ったが、航空機からタラップを降りた直後に暗殺された。

暗殺事件の背後にマルコス政権が関与していたことが次第に明らかになり、これを契機に民衆の反マルコス気運が徐々に盛り上がり、1986年にマルコス大統領は退陣に追い込まれ、ニノイ・アキノ氏の妻、コラソン・アキノ氏が大統領となった。

この一連の出来事をフィリピンではマニラ市内の反マルコス群衆が集まった通りの名称から「エドサ革命」あるいは「ピープルパワー革命」と呼ばれている。

ニノイ・アキノ氏は1987年から500ペソ紙幣に肖像画として登場するとともに「マニラ国際空港」も同年「ニノイ・アキノ国際空港」と改名されて現在に至っている。


【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・東京都、新型コロナウイルス新規感染48人を確認 今月5度目の40人超え
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ

ビジネス

英中銀総裁「AIバブルの可能性」、株価調整リスクを

ビジネス

シカゴ連銀公表の米失業率、10月概算値は4.4% 

ワールド

米民主党ペロシ議員が政界引退へ 女性初の米下院議長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    ファン熱狂も「マジで削除して」と娘は赤面...マライ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中