最新記事

BLM運動

「チャーチルは人種差別主義者」イギリスを救った名宰相がなぜ今、やり玉にあげられる?

Was Churchill a Racist?

2020年6月25日(木)16時00分
アレックス・ハドソン

存命中から毀誉褒貶が激しかったチャーチル像への落書きで議論も再燃 DYLAN MARTINEZ-REUTERS

<名宰相チャーチルの彫像にデモ隊が落書き──イギリス国内を分断する論争に現首相ボリス・ジョンソンも参戦>

ウィンストン・チャーチルといえば第2次大戦でイギリスを勝利に導き、戦後も首相として国の再建に尽力した英国政界の偉人。まさか人種差別に抗議するBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は重い)運動でやり玉に挙がるとは誰も思っていなかった。

ところが先日ロンドンで行われた大規模デモで、ある参加者がチャーチル像の台座に刻まれた首相の名にスプレーを吹き掛け、その下に「こいつは人種差別主義者」と書き込んだ。

ショックを受けた現首相のボリス・ジョンソンは英紙デイリー・テレグラフへの寄稿で「なぜチャーチルを攻撃するのか」と問い、「わが国の最も偉大な指導者を群衆の怒りから守らねばならないとは、世も末だ」と嘆いた。これが火付け役となって議論の大合唱が起き、気が付けば今やデモ隊は悪者扱いだ。

特権階級の白人で、とっくに故人となっているチャーチルが、なぜ今の時代の人種差別をめぐる論争に引っ張り出され、しかも主役の座を奪うような事態になったのか。

「BLM運動をおとしめようとする極右勢力や保守党政権による意図的な策動」だと本誌に語ったのは、人権派の女性弁護士ショーラ・モスショグバミム。「チャーチル自身も彼の像も、この運動には全く関係ない。抗議デモの目的は抑圧的な人種差別を終わらせることにある」

チャーチルを人種差別主義者と呼べるかどうかは、歴史家によって評価の分かれるところだろう。しかし彼の人種観が今日の基準では受け入れ難いものであることは、ほぼ誰もが認めている。

巨大な板で覆われる皮肉

「白人が最も優れているという信念を、彼は隠そうともしなかった」と解説するのは英エクセター大学の歴史学者リチャード・トイ教授だ。「中国人は好かない、インド人は野蛮な宗教を信じている、アフリカの人間は子供っぽい。そんなことを公言していたから、存命中も時代遅れと批判されたことがある」

チャーチルの孫娘エマ・ソームズも、祖父の人種観は「今の時代にはとても受け入れられない」と認めている。ただし祖父の像については、博物館に飾ったほうが安全かもしれないが、あれが議会前広場から撤去されたら「すごく寂しい場所になる」とBBCに語った。

<参考記事:イギリス版「人種差別抗議デモ」への疑問

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中