なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符
メーカーは拘束した相手への使用を禁止
近年テーザー銃が誤用された例をみると、この武器をめぐるリスクや混乱が浮き彫りになっている。
ミネアポリスにおけるジョージ・フロイドさんの死亡をめぐる抗議が全米に広がった5月30日、アトランタの2人の大学生、タニヤ・ピルグリムさん(20)、メサイア・ヤングさん(22)は食品を購入するために外出し、抗議行動に伴う交通渋滞に巻き込まれた。
小型カメラの映像によれば、警官の1人が運転手側のサイドウィンドウを警棒で繰り返し叩き、別の警官がテーザー銃を使ってピルグリムさんに電撃を与えている。黒人学生2人を車から引きずり出す際に、3人目の警官がヤングさんに対してテーザー銃を使っている。
警官が2人に電撃を与えている動画は、全国的な批判を引き起こした。翌日、アトランタ警察のエリカ・シールズ署長は記者会見で謝罪した。「1つの機関として、また個人として私たちの振る舞いは許容できないものだった」と語った。ヤングさんは病院で治療を受けたが、傷口を縫う必要があった。13日、ブルックスさん死亡事件を受けてシールズ署長は辞任した。
5月30日の事件の後、ある警察官は報告書のなかで、学生たちが武器を所持しているか確認できなかったためテーザー銃を使用したと書いている。テーザー銃の製造元であるアクソン・エンタープライズは、各警察に配布しているガイドラインのなかで、運転中の人または拘束された人に対してテーザー銃を使用すべきではないと警告している。また法執行の専門家によれば、一般に、車内にいるなど身動きの取れない人に対してテーザー銃を使用すべきではないという。
この事件に関与した警察官6人(そのうち5人が黒人で1人が白人)は、過剰な暴力を振るったとして告発された。うち4人が免職処分となり、2人が処分取り消しを求めて市長・警察署長を訴えている。この2人の警察官の弁護士は、免職は政治的な動機に基づいたものだと確信していると述べている。
オークランド警察署でテーザー銃導入計画を担当した退役警官マイケル・レオネジオ氏は「警察が問うべきことは、『私はテーザー銃を使えるか』ではなく、『私はテーザー銃を使うべきか』だ」と語る。同氏はアクソンを相手取った不法死亡訴訟において専門家として証言を行っている。「テーザー銃は危険な武器だ」とレオネジオ氏は言う。「使用されることが増えれば、それだけ命を落とす人も増える」
アクソンは、自社が製造する武器について、リスクがゼロではないが、警棒やゴム弾などと比べても安全であると述べている。同社はロイターに送付したメールのなかで、「状況にかかわらず、命が失われることは悲劇だ。だからこそ私たちは、今も警官とコミュニティ双方を守るための技術開発と訓練に力を注いでいる」としている。
【関連記事】
・木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...