最新記事

アメリカ社会

なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符

2020年6月21日(日)20時15分

国の警官が取り締まり時に使用するスタンガンの一種「テーザー銃」。ロイターが分析したところ、テーザー銃が使われ死亡者が出たケースでは、黒人が犠牲になる比率が不釣り合いなほど大きいことが分かった。写真は警察機関の国際イベントに展示されたテーザー銃。2016年10月、カリフォルニア州サンディエゴで撮影(2020年 ロイター/Mike Blake)

全米に広がる抗議デモに対応するなかで、警察はゴム弾や催涙スプレー、催涙ガス弾その他、できるだけ死者を出さないことを念頭に武器を使用するようになっている。

だが、潜在的に殺傷力を有する武器を使う例も見られる。スタンガンの一種「テーザー銃」だ。ロイターが分析したところ、テーザー銃が使われ死亡者が出たケースでは、黒人が犠牲になる比率が不釣り合いなほど大きいことが分かった。

ロイターの記録では、警察のテーザー銃使用により死亡した例は、2018年末までで1081件ある。多くは2000年以降だ。死亡者のうち少なくとも32%は黒人であり、少なくとも29%は白人である。総人口に占める比率では、アフリカ系米国人が14%、ヒスパニック以外の白人が60%となっている。

米国自由人権協会の上級専属弁護士カール・タケイ氏は、「こうした人種間の格差がテーザー銃による死亡例に見られることは恐ろしいが、意外ではない」と語る。「警察による暴力は、米国の黒人の主要な死因になっている。黒人・有色人種コミュニティに対する過剰な取締りが、警察による不必要な介入、不必要な実力行使につながっている」

警察の報告書、検視報告書その他の記録において死亡例の13%はヒスパニック系だが、人種を確認することができなかった。また残りの26%についても、死亡者の人種が不明である。

警官による殺害への抗議を通じて、警察の対応に注目が集まるなか、米国の法執行部門が抱える難題が浮き彫りになっている。断続的な電流によるショックを与えるテーザー銃は、対象者を拘束するため数秒間の猶予を警官に与えることを意図したものであり、通常の火器よりも殺傷能力が低い代替策として、2000年代初頭からほぼ全国的に採用されている。全米約1万8000の警察機関のうち、約94%が現在テーザー銃を支給している。

12日にアトランタで発生したレイシャード・ブルックスさん(27)の死亡事件を受けて、テーザー銃に一層、関心が集まった。ジョージア州捜査当局によれば、警官ともみ合いになったブルックスさんが警官のテーザー銃を奪って逃走し、警官に向かって構え、その後、警官が拳銃を発射したという。ブルックスさんの遺族の弁護士L・クリス・スチュワート氏は、テーザー銃は殺傷能力のない武器であるというのが警察の日頃からの主張である以上、ブルックスさんがテーザー銃を構えたからといって発砲は正当化されないとしている。

だがロイターでは、一連の報道を通じて、警官が発射したテーザー銃による電撃を受けて死亡した例を2000年以降で1000件以上確認している。ただし、テーザー銃以外による実力行使も合わせて見られるのが普通だ。

テーザー銃に関する調査を行っている外部の研究者の大半は、適切に使用されれば死亡することはめったにないと述べている。だがロイターの調査によれば、多くの警官はテーザー銃の使用に伴うリスクについて適切な研修を受けておらず、誤った使い方をしていることが多い。テーザー銃は、ワイヤーで接続された2本の電極針を発射し、電撃を与えて相手の行動を封じるものだ。直接相手の身体に押しつけることもできるが、この「ドライブ・スタン」方式の場合は強い痛みが伴う。


【関連記事】
・木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用

ビジネス

米電力業界、次期政権にインフレ抑制法の税制優遇策存

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中