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生物冬眠に似た状態に導く神経回路が日本とアメリカで相次いで発見される
冬眠のメカニズムはまだ解明されていないが ...... SashaFoxWalters -iStock
<本来は冬眠しないマウスを冬眠に似た状態に導く「スイッチ」のような神経回路を特定する研究成果が、日本とアメリカで相次いで発表された ......>
冬眠とは、クマやハリモグラなど、哺乳類の一部が、食糧の乏しい冬季に、体温や代謝を下げてエネルギーを保持ながら生き延びる現象である。冬眠の調整には脳の一部が関与していると考えられてきたが、そのメカニズムはまだ解明されていない。このほど、本来は冬眠しないマウスを冬眠に似た状態に導く「スイッチ」のような神経回路を特定する研究成果が、日本とアメリカで相次いで発表された。
筑波大学と理化学研究所の共同研究チームが新しい神経回路を発見
筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武教授らと理化学研究所の共同研究チームは、マウスを冬眠に似た状態に誘導できる新しい神経回路を発見し、2020年6月11日、その研究成果を学術雑誌「ネイチャー」で発表した。マウスの視床下部にあるこの神経細胞群は「Q神経(休眠誘導神経)」と名付けられ、Q神経を刺激することによって生じる低代謝を「QIH(Q神経誘導性低代謝)」と称している。
実験では、マウスのQ神経に刺激を与えると、48時間以上にわたって、動きや摂食がほぼなくなり、体温が摂氏24度まで下がり、酸素消費量(VO2)も大幅に低下したが、代謝を制御する機能は維持され、冬眠と極めてよく似た状態になった。この状態から回復した後も、マウスの組織や器官に損傷はなく、行動の異常も認められなかった。
研究チームでは、マウスと同じく冬眠しないラットにも、Q神経に刺激を与える実験を行った。その結果、マウスと同様に、長期的かつ可逆的な低代謝が確認された。このことから、研究チームは、「哺乳類に広く備わっているQ神経を刺激することで、ヒトを含め、本来は冬眠しない哺乳類を、冬眠に似た状態に誘導できるのではないか」との仮説を示している。
ハーバード大学医学大学院の研究チームは視床下部に着目
米ハーバード大学医学大学院の研究チームは、マウスが冬眠に似た状態になるのを制御する神経細胞群を特定するべく、体温や空腹感、ホルモン分泌などをつかさどる視床下部に着目。マウス54匹を用いて、視床下部の226カ所に微量のウイルスを注入して刺激を与える実験を行った。
その結果、視床下部の神経細胞群「avMLPA(視索前野の前腹側領域)」が活性化されると、マウスは冬眠に似た状態になることがわかった。一連の研究成果は、6月11日に「ネイチャー」で掲載されている。
ヒトを人工的に「冬眠状態」にできれば ......
これら2つの研究成果は、哺乳類、とりわけヒトを冬眠に似た状態を誘導するメカニズムの解明において、大きな前進といえる。ヒトを人工的に「冬眠状態」にできれば、重症患者の搬送や麻酔の代替、移植用臓器の保存など、様々な分野で応用できる可能性がある。
研究論文の責任著者でもある、ハーバード大学医学大学院のマイケル・グリーンベルグ教授は、「マウスと同様の『冬眠状態』にヒトを誘導できるのかどうかについて言及するのは早計だが、これを目指して取り組む価値はあるだろう」と述べている。
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