ロックダウンで様変わりするヒマラヤ──写真集で世界最高峰エベレストを体感する
EVEREST
収録された80点近い写真は、すべて中判のフィルムカメラで撮影している。カラーネガフィルムから六つ切や四つ切サイズに焼いたプリントを入稿し、印刷した。今回は通常版として縦24×横30センチのサイズの本の他に、「ビッグブック」と呼ばれる超大型の写真集も作った。判型は縦69×横42.6センチ、重量は11キロもあって、ビッグブックという名にたがわない存在感を放つ。小さな机よりも少し大きな写真が見開きで連続する構成は、巨大なヒマラヤにこそふさわしい。この大きさで写真を見ると、手ぶれや焦点のズレも強調されてしまうがゆえに、セレクトも慎重におこなわざるをえなかった。手焼きしたプリント群を忠実に再現し、ビッグブックに落とし込んだ最先端の印刷技術の精緻さも伝わるはずだ。
通常版はタイトル通り『EVEREST』の登頂に至るまでの過程を撮影したもので、ビッグブックのほうは、それに加えて世界第二位の高峰K2の麓の村から頂上直下に至るまでの写真も収録されている。エベレストの何倍も登るのが難しいとされるK2に登りながらフィルムカメラで撮影するのは、ぼくには手に余る挑戦だった。二回にわたるK2遠征によって文字通りもぎとった66点の写真を、ぜひビッグブックの大きさで見てほしいと思う。
写真は大きくなることによって、情報量が増える。写っているものは小さくても大きくても変わらないのだが、大きくなればなるほどそこから読み取れる情報量は深くなる。例えば、こんな場所に人がいたのか、この斜面で雪崩が起きている、こちらのルートのほうが歩きやすそうだな、などなど、手札サイズの写真では気づけなかった発見が出てくる。写真が大きいことによって、目の解像度があがるような感覚で、ヒマラヤの襞のひとつひとつまで見ることができるわけだ。当然色校正をはじめ、ダミーブックを作るような作業も、その大きさゆえに非常に苦労を擁した。一方でこうした作業によってエベレストやK2の写真のディティールをあらためて見つめ直し続けた数カ月間は、ぼくにとって気づきの多い貴重な時間と相成った。
コロナ禍によって、今夏の富士山登山さえも禁止されることになり、人々の足は山から遠のく一方だ。せめて写真集の中でエベレストに登ってみてほしい。そこにあるのは世界最高峰として名を馳せるエベレストではなく、あのときのその一瞬にのみぼくの前に姿を現した巨峰である。
新型コロナウィルスの感染拡大が収束し、秋にはまたネパールに行けるだろうか。シェルパたちとまたヒマラヤの山々へ向かえる日が早々にくることを願ってやまない。
『EVEREST』
石川直樹著
CCCメディアハウス
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