最新記事

アメリカ社会

ジョージ・フロイド暴行死に憤る白人層 アメリカ社会は変われるか

2020年6月15日(月)11時49分

パフォーマンス

今回のような社会問題に通常、一定の距離を置くことが多い世界中の大企業は、人種間の格差是正などのために総額17億ドル(約1800億円)を約束したところだ。米各都市の議会では、警察予算の制限や警察の捜査手法の規制を決議にかけている。南北戦争時に奴隷制度維持を唱えた南軍側の人物の記念銅像は、各地で次々に引き倒されている。

一方、ロイターの調査によると、米企業の一部は黒人をほとんど上級幹部に昇進させていない。NYSEは設立から200年が経過した今でも、トレーダーや経営陣の圧倒的多数が白人だという現実がある。

8日には野党・民主党のペロシ下院議長や上院指導部らが議会で、フロイドさんの死を悼むためアフリカ・ガーナの民族衣装「ケンテ」をまとい、抵抗のポーズとされる片膝をつく姿勢で9分近い黙とうを捧げた。しかし、シカゴの黒人運動家チャールズ・プレストン氏は、中身のない単なるパフォーマンスで「ばかげている」と切り捨てた。同氏は、政治家ならば本当に黒人を助ける政策変更を推し進めるべきではないかと話す。

人種差別への抗議のポーズは、1968年のメキシコ五輪で米国陸上代表の黒人選手2人がメダル表彰時に行った、下を向いて片手を高く上げる「ブラックパワー・サリュート」と呼ばれる動作が有名だ。2016年、サンフランシスコ・フォーティーナイナーズのクオーターバックだったコリン・キャパニック選手は、国歌斉唱時に起立せずに片膝をつく姿勢を始め、今なお物議を醸している。

新世代

「黒人市民運動に関する全米連合」のメラニー・キャンベル事務局長は、ベテラン運動家の間では、白人を巻き込んだこの流れが長期間続くことに懐疑論があると述べた。それでも、フロイドさんの事件後に噴出した怒りや不満のレベルは、かつてないほどだとも認める。

キャンベル氏は、学校で多数が銃撃される事件や分断をあおる大統領、黒人が人種的理由で殺される光景を目にしている世代が、反対の声を上げているとの見方を示した。

米国の人口動態も変化しつつある。ピュー研究所によると、今年に有権者登録ができる10人に1人、数にして約2200万人が、Z世代(1990年代後半から2000年初め生まれ)と呼ばれる世代に属する。この世代は米国の歴史上、最も人種的多様性が進んでおり、白人の比率は52%しかない。

ワシントンの6日のデモに加わった21歳の白人学生カイル・ホルマンさんは、人種問題について「決して克服できない課題ではない。今の状況が有色人種にとっては本当にひどいと我々が気付きさえすれば、議論を前に進められる」と断言した。


Nandita Bose Heather Timmons

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・黒人男性ジョージ・フロイドの霊柩車に、警官がひざまずいて弔意を示す
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...


20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中