最新記事

インド

コロナ禍で疲弊したインド農家を、非情なバッタの大群が襲う

LOCUSTS PLAGUE INDIA

2020年6月12日(金)18時30分
ニータ・ラル

昨年からのインドでのバッタの発生は、専門家によれば1993年以来最もひどいものだ。ナレンドラ・シン・トーマー農業・農民福祉相の議会での発言によると、この1年間で国内の農地約16万8600ヘクタールの88%がバッタに襲われ、被害地域では作物の3分の1以上が失われている。

パキスタンの砂漠地帯と国境を接する西部のグジャラート州とラジャスタン州の農業地帯は、とりわけバッタに弱い。昨年夏にもパキスタンから食欲旺盛な黄色い群れが押し寄せ、ラジャスタン州西部とグジャラート州北部でラビ作(乾期作)の作物に壊滅的な被害を与えた。両州当局はトラクターで殺虫剤を噴霧するなどして、被害を受けた43万ヘクタール以上の農地の対応に当たった。

砂漠地帯のラジャスタン州の状況は、特に4月から深刻だ。気象の専門家によると、バッタは砂嵐が起こると、それに運ばれて余計に速く移動できる。国内で最も人口が多いウッタルプラデシュ州のサトウキビ畑も、すさまじい被害を受けている。

これから芽が出る綿花や野菜、4月にまいた飼料用穀物について、農家の心配は募る一方だ。「もうじき種をまくキビやムングダール(緑豆)の柔らかい芽も被害に遭うのではないか」と、ラジャスタン州ジャイサルメールで農業を営むラム・プラサドは不安げに語った。

彼のような小規模農家にできるのは、皿をたたいたり、火をともしたりしてバッタを追い払おうとすることくらいだ。ラジャスタン州議会ではメディアの注目を集めようとして、バッタを山盛りにした籠を頭に載せて議場に入った議員もいる。

ラジャスタン州のアショク・ゲロット首相は5月14日、中央政府にバッタ被害への支援を求めた。その際にゲロットは、モディに昨年のバッタ被害の大きさを思い出させることを忘れなかった。

昨年冬にはモディの故郷であるグジャラート州で、バッタが2万5000ヘクタールに及ぶ畑を食い荒らしていた。中央政府と州は協力して、被害を受けた農家に薬品や支援物資を届けた。

気候変動が影響している?

全国各地での被害を受けて、インド政府はドローンなど各種設備に投資を進めるほか、国内外の専門家に助言を求めるなどの対策を講じている。「害虫の移動経路をドローンで追跡したり、繁殖を食い止めるために殺虫剤を空中散布したりしている」と、農業省の高官は言う。

この高官によれば、被害地域の農家に注意を喚起する目的でキャンペーンも展開してきた。害虫予防策が書かれたパンフレットやステッカーが配布され、ビルや倉庫の壁には用心を促すメッセージが並んでいる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中