最新記事

人種差別抗議デモ

ドイツではなぜこれまで人種差別が語られてこなかったのか BLM運動は自国の問題

2020年6月17日(水)17時10分
モーゲンスタン陽子

ドイツでも、黒人が警察により殺された事件が数件起きている ...... FRANCE 24 English-YouTube

<ジョージ・フロイド殺害事件を機にドイツの抗議デモは今やアメリカ国外で最大といわれる。アメリカへの共感だけではなく、ドイツ国内に存在する人種差別、とくに警察に対する怒りが爆発しているようだ ......>

ジョージ・フロイド殺害事件を機に「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が世界中に広がった。ドイツでも6月6日、ベルリンで1万5千人、ハンブルクで1万4千、ミュンヘンで2万人以上が抗議に集まったが、その1週前の各地デモの10倍もの人出だった。ドイツの抗議デモは今やアメリカ国外で最大といわれる。アメリカへの共感だけではなく、ドイツ国内に存在する人種差別、とくに警察に対する怒りが爆発しているようだ。

11日、ドイツの司法省と内務省は、警察による「レイシャルプロファイリング」に対する調査を行うことを発表。またベルリンでは4日、全国で初めて、警察などから不当な差別を受けた場合に賠償を求めることができる新しい反差別法を可決している。

ドイツは2017年に国連より、国中に蔓延する人種差別と「歴史の不完全な認識」、そして警察に内在する組織的人種差別について警告を受けている

レイシャルプロファイリングとは

レイシャルプロファイリングとは、有色人種の外見で調査対象を絞り、不必要な身体検査や職務質問を行うことだ。国連の指摘にもかかわらず、警察当局がレイシャルプロファイリングの存在を繰り返し否定していること、そして連邦および州レベルでの独立した(警察に対する)苦情メカニズムの欠如が、これを助長しているといわれる。

政治家の意見は分かれている。ドイツ警察内に組織的人種差別はないと主張する政治家たちは、どうやらアメリカでの差別と同レベルで語られることに不満のようだ。

ドイツ憲法は性別、人種、宗教的見解など様々な理由による差別を明確に禁じているが、徹底されているわけではなかった。2018年の裁判では、特定の地域で肌の色の濃い人が平均より多くの刑事事件を起こす具体的な兆候がある場合、警察にレイシャルプロファイリングを認める判定が出されている。

ドイツでも、黒人が警察により殺された事件が数件 ......

ドイツでも過去、黒人が警察により殺されたり、保護中に亡くなったりという事件が数件起きている。最もよく知られているものに、2005年にシエラレオネからの亡命希望者オウリー・ジャローがデッサウ警察拘留中に焼死体で発見された事件がある。ジャローの体はマットにくくりつけられていた。警察官2人が有罪となったがのちに釈放、2011年に再調査が始まるも証拠不十分で17年に調査は終了となったが、19年にジャローがひどい虐待を受けていたという科学報告が発表された。

今月12日には、ドイツ東部ブランデンブルク州の警官2人が、70歳のホームレスの男性にふざけ半分の嫌がらせを行っているビデオがSNSで出回り、停職となった。

【話題の記事】
「ドイツの黒人はドイツ人とは認められない」 ベルリンで起きた共感のデモ
動画:「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?
ドイツ人 マスク嫌いすぎで小売業がピンチ
冗談なの? 20年後のデスクワーカーの姿を予測した人形が過激すぎて話題に

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中