最新記事

ネット

デーブが語る、『テラハ』木村花さんの死は何が問題だったのか

Toxic Cyberbullying

2020年5月30日(土)14時00分
大橋 希(本誌記者)

木村は番組中の出来事を機に誹謗中傷を受けた Etsuo Hara/GETTY IMAGES

<人気リアリティー番組に出演していた女子プロレスラー、木村花の死は国内外に衝撃を与えた。番組作りやSNSの中傷問題などについて、日米のテレビ業界に詳しいテレビプロデューサーでタレントのデーブ・スペクターに話を聞いた。>

男女6人の共同生活を映す恋愛リアリティー番組『テラスハウスTOKYO 2019-2020』に出演する女子プロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。おそらく自殺で、原因はSNSでの誹謗中傷とされ、番組やSNS上の発言のあり方をめぐって議論が巻き起こっている。リアリティー番組が盛んなアメリカと日本の違いなどについて、テレビプロデューサーでタレントのデーブ・スペクターに話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――『テラスハウス(テラハ)』は見ていた?

もちろん見ています。ファンではないですけど。演出の一環としてですが、外国の番組風に色調を加工しているじゃないですか。あんまりそういうのは好きじゃない。

あと、(スタジオメンバーによる)実況はいらないと思うんだよね。どうしても日本のテレビ局は「有名人やタレントがいないともたない」と不安に思っちゃう。コマーシャルや番組販売の営業をするのに、誰々がナビゲーターですとか、ナレーションはこの人ですと紹介できないと物足りないという思い込みがあるんですよ。もし外国で『テラスハウス』を作ったとしたら番組をそのまま見せるだけで、ああいうタレントの登場場面は入れない。その分、中味が減るじゃないですか。

――『テラハ』はアメリカでも人気のようだが。

そうです。日本の実写モノ番組としては、『料理の鉄人』に並ぶくらいのヒットなんですよ。日本オタクが見るのではなくて。ただ純粋に面白いから見る、と。ただこれはネットフリックスで、配信しやすいから。普通なら、番組を1つずつテレビ局に売るのは大変なことなんです。

『テラハ』はアメリカの――といってもその前はヨーロッパですけど――リアリティー番組のスタイルに基づいて作った。ただ、日本にはそうした番組がなかったとみんな思っているかもしれないが、実は非常に少ないけど、あるんですよ。『痛快!ビッグダディ』、あれは完璧なリアリティー番組です。タレントによる実況もないしね。大家族ものは日本の得意技で、昔からよくやっている。そんなに裕福ではないけれど、みんながんばってお母さんを手伝ったり、反抗期の女の子がいたり......。『はじめてのおつかい』もありますよね。

アメリカのリアリティー番組で世界的に有名になったのは、パリス・ヒルトンの『シンプルライフ』(03~07年)。普通のアメリカ人から見て、「なるほど、これがリアリティー番組か」というものだった。ニコール・リッチーとヒルトンに密着しただけなんですけど大成功した。その延長線で、キム・カーダシアンの番組ももう10年以上やっている。

リアリティー番組を次のシーズンも続けるには、視聴率を取らないといけない。ネットフリックスなら視聴回数ですね。あるいは話題性がないと打ち切りになってしまう。だからどんどん煽る。木村花さんが犠牲になったことは本当に気の毒ですが、洗濯機の事件(*)はあって当たり前ですよ。だって、男の子が女の子を口説いているだけだったら見ていてつまらないし、盛り上がらない。

(*洗濯機に入ったままの木村さんのプロレス用コスチュームを、男性メンバーが誤って自分の洗濯物と一緒に洗濯・乾燥させてしまう。コスチュームは縮んで使えなくなり、木村さんが男性に激怒した。)

――台本はないと言われているが、どの程度まで製作側が仕掛けているのか。

僕もリアリティー番組の製作現場を見たりしているけど、台本ではなく状況、環境を作るんです。例えば以前やっていた『あいのり』では、「あの子がいいんじゃないの」と言ったり、その程度ですよ。「これをやりなさい」と強制することはない。仕込みというほどまでは、ないです。それやったら外にバレちゃうし、作っている人たちのプライドもなくなる。

ただ、誘導くらいはします。僕自身、有名な外国の催眠術師が来て「私が手をたたくと、あなたはニワトリになります」とやるような特別番組に出たことがある。やらせは大問題になるのでやらないんですけど、心理学を使う。番組開始前に、30人くらいの出演タレントにディレクターが「みなさん、恥ずかしい恰好でもいいから、恥ずかしいと思わずにがんばってください」と言うわけです。つまり、ニワトリになってください、と直接言うことはなく、催眠術にかかったふりをしてもいいよ、と遠回しに言う。

リアリティー番組の始まりは、99年にオランダで放映された『ビッグ・ブラザー』。その後、五十数カ国でフォーマット販売をしている。出場者の投票で退去する人を決めていくスタイルで、ある意味で競争です。ドナルド・トランプ米大統領がやっていた番組『アプレンティス』も脱落者を決める方式だったが、視聴者は自分が応援している人を残すためにライバルに対して「勘違い野郎」とか、ものすごい悪口を言う。人種差別的なコメントも多い。

『アメリカン・アイドル』でも同じ。もちろん好意的なコメントが圧倒的に多いが、リアリティー番組にはバッシングや中傷は付きものなんです。

もう1つ、これは既に有名人だった木村さんには当てはまらないが、リアリティー番組の何が危険かというと、一般人が一気に有名になること。才能がない人がいつのまにか有名になって、誤解して、いろんなトラブルになったりもする。それに、「お前のこと嫌い」と言われたことのない人が、急に数えきれない人からそれを言われたら、耐えられない場合だってありますよ。世界で38人ほどがリアリティー番組が原因で自殺しているとの情報もある。楽しくて、出演料をもらえて、有名になれるが、人生をめちゃくちゃにされることもある。

(日本の恋愛リアリティー番組の)元祖は、とんねるずの『ねるとん紅鯨団』。あれは大ヒットして、「交際していただけますか」だけのバラエティー番組だけどすっごくよかった。番組全体が健全なおふざけで、本気じゃないのがよかった。

でも欧米型のリアリティー番組はガチで、まじなんですよ。下手したら笑えないくらいガチ。『風雲!たけし城』はコンテスト番組ですが、ビートたけしとお笑い芸人がめちゃくちゃに茶化すから面白い。でもアメリカ版『たけし城』はガチで競争をやって、全然面白くない。だから、日本は逆行している。つまり『ねるとん』が頂点で、どんどんダメになっている。僕は日本のスタイルのほうが健康的でいいと思う。「フィーリングカップル5対5」(『プロポーズ大作戦』)もぎこちなくて、緊張しちゃう感じが最高だった。「フィーリングカップル」にしても『ねるとん』にしても、もし今やっていたら、見ている人がSNSでばかにしたりしないと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中