最新記事

ブラジル

新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領

Brazil’s Perfect Storm

2020年5月21日(木)11時40分
デービッド・ブレナン

ボルソナロ大統領は新型コロナによる危機の存在を認めようともしない UESLEI MARCELINO-REUTERS

<貧困層が次々とウイルスの犠牲になっているのに、ボルソナロ大統領は危機の存在さえ真っ向から否定する>

世界の指導者の中でも、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領ほどコロナ禍への対応のひどさで「注目」されている人物はいないかもしれない。

ブラジルでの新型コロナウイルスの感染者は22万人を超え、死者は1万5000人に迫る。いずれも世界で6番目に多い。(編集部注:18日にイギリスを抜き、感染者数は世界3位に)それでもボルソナロは、新型コロナウイルスについて「国民への脅威はない」と主張。異を唱える者がいれば、相手がジャーナリストでも国会議員でも、あるいは閣僚でも、攻撃の手を緩めない。

ボルソナロは2018年の大統領選で、既成勢力に反発する風潮に後押しされて圧勝を遂げた。今回のコロナ禍の前から、彼は対立をあおる指導者だった。しかしブラジルで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するにつれ、科学や公衆衛生を軽視する彼の欠点がさらに際立っている。

5月初めには「社会的距離」を無視して、友人とジェットスキーを楽しんでいる動画がネット上に出回った。4月末には国内の死者が5000人に達したことについて記者から質問され、「だから何なんだ?」と言い放った。

世界でも格差の大きい国の1つであるブラジルに、新型コロナウイルスは最悪の影響をもたらしている。約1200万人に上る最貧困層は、大都市の外れにあるファベーラと呼ばれるスラム街に暮らす。人口密度が高く、各種サービスへのアクセスも悪い地域だ。歴代政権はファベーラの周囲に壁を建てて、観光客などの目に触れないようにしてきた。

いま新型コロナウイルスはファベーラを中心に拡大し、ただでさえ乏しかった医療サービスは崩壊寸前だ。貧困層を支援しようとする活動家は対応に苦慮している。

エリアナ・ソウサ・シルバは、リオデジャネイロでファベーラの住民を支援するNGOへジス・ダ・マレのディレクター。約14万人が住むマレ地区を拠点に活動を展開している。新型コロナウイルスの感染拡大は貧しい住民への支援活動にも悪影響を及ぼしていると、彼女は言う。

へジス・ダ・マレが最優先課題として取り組んでいる活動の1つが、ファベーラの住民の中でも最も貧しい約6000世帯に食料を確保するというもの。ホームレスの人々や病人にも、毎日300食以上の食事を提供している。

このプロジェクトは、雇用創出という恩恵ももたらしてきた。ブラジルでは全国で失業率が悪化傾向にある。4月には経済省民営化担当局のサリム・マタール局長が、12%超という現在の失業率は近いうちに2倍になる恐れもあると語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英ヒースロー空港再開、停電への対応調査へ 航空便の

ワールド

イスラエルがレバノン空爆、ロケット弾への報復 停戦

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週間ぶり増=ベーカー

ワールド

アングル:米大麦農家、ビール消費減少とトランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔平が見せた「神対応」とは? 関係者に小声で確認していたのは...
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 6
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 7
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中