最新記事

日本社会

危機に直面して自分を責める時代はもう終わりにしよう

2020年5月20日(水)13時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本では前者が多いようで、やや古いが2013年の統計を引くと、自殺者が2万6080人、強盗認知件数が3224件となっている。この2つの合算を、危機に遭遇した人の量と仮定すると、その88.7%が自殺していることになる。両者の合算に占める、自殺の割合だ。

この値は国によって大きく異なる。<表1>は、目ぼしい8か国の強盗認知数と自殺者数を対比したものだ。

data200520-chart01.png

日本と韓国は自殺が圧倒的に多いが、他国はその逆だ。アメリカは強盗が34万5100件、自殺が4万1149人で、自殺の割合は10.7%でしかない。ブラジルに至ってはわずか1%だ。裏返すと危機における逸脱行為の99%が強盗で占められている。

スペインも内向度が低い。筆者が以前に明らかにしたところによると、この国では失業と自殺が全く相関していない(拙稿「不要不急の仕事の発想がない日本は、危機に対して脆弱な社会」本サイト、2020年4月8日)。失業率が変動しても自殺率はほぼフラットだが、強盗率とは相関しているかもしれない。

<表1>の内向度を66か国について出し、分布をとると以下のようになる。

▼80%以上 ... 2か国
▼70%台 ... 2か国
▼60%台 ... 2か国
▼50%台 ... 3か国
▼40%台 ... 4か国
▼30%台 ... 5か国
▼20%台 ... 10か国
▼10%台 ... 11か国
▼10%未満 ... 27か国

日本の88.7%は、66か国の中では最も高い。この数値が50%を超える、つまり強盗より自殺が多い国は日本を含めて9あり、韓国、タイ、香港、シンガポールといったアジア諸国が多くなっている。

数としては、内向度が10%未満の国が多い(27か国)。強盗と自殺の内訳図をつくると、ほとんどが強盗で占められる国だ。自分ではなく、他人を攻撃する。先ほど見たブラジルをはじめ、中南米の諸国が名を多く連ねている。

為政者にとって都合がいいのは、社会を混乱させることなく、生活苦の人は自ら消えていってくれる「内向型」の国だろう。日本はその極地で、この国の政治家は、こうした国民性の上にあぐらをかいている。決め台詞は「自己責任」だ。

しかし時代は変わりつつある。これまでは苦境に置かれた人は個々バラバラに分断されていたが、今はSNS等で容易につながれるようになっている。とくに若年層はそうで、困窮した学生への救済を求める運動が、ネット上で盛り上がっている。昨年の「#MeToo」運動もだが、これぞ現代型の社会運動だ。

自分を責める時代はもう終わりだ。選挙権付与年齢が18歳に下がり、高校生の政治活動も条件付きで認められている。合法的なやり方で政治に働きかけ、社会を変えることはできる。早い段階からこのことを教えれば、自殺も強盗も食い止めることはできるはずだ。

<資料:総務省『労働力調査』
    法務省『犯罪白書』
    UNODC:DATAUNODC
    WHO:Mortality Database

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中