最新記事

テロ組織

コロナ危機を売名に利用するテロ組織の欺瞞

For the Taliban, the Pandemic Is a Ladder

2020年5月15日(金)16時40分
アシュリー・ジャクソン

政府のウイルス対策が不十分だと、「住民への奉仕という点ではテロ組織のほうが頼りになる」という印象が助長されかねないと警告するアナリストもいる。

たいていの場合、こうした評価は眉唾ものだ。テロリストや犯罪組織にはパンデミックを宣伝に利用する力はあっても、公衆衛生上の危機に対応する能力は欠いている。感染対策のもたらす経済的・社会的な副作用への対応もできるはずがない。臨時政府の樹立を宣言し、国際社会の支援物資を横取りすることはできても、自力で医療サービスを提供する技術も経験もない(ほとんど唯一の例外はレバノンのヒズボラで、彼らは何千人もの医療スタッフを感染対策に動員している)。

豊かな先進諸国でさえ、今回のパンデミックには手を焼いている。世界で最も先進的な医療システムを持つ国でも新型コロナウイルスの感染拡大には追い付けない。暴力の支配する苛酷な環境に置かれた人々には打つ手がない。結局のところ、武装組織の支配下にいる民間人は最大の被害者だ。暴力は医療へのアクセスを制限し、サプライチェーンに負担をかける。善意の医療スタッフも、安全な場所に避難せざるを得ない。

そうなれば地域全体が医療サービスから切り離され、物資の供給路も断たれて医療システムが完全に崩壊する。アフガニスタンの首都カブールでは、既に人口の3分の1が新型ウイルスに感染しているとの報道もある。政府の推定でも、国内の死者は最終的に11万人に達するという。実際はその6倍になるという説もあるが、いずれにせよ確かなことは分からない。

停戦を拒否し攻撃を激化

国連は3月23日に全世界に向けて、感染予防のための一時休戦を呼び掛けた。これに対してコロンビアやフィリピン、リビアや南スーダンなどの武装組織が休戦に応じる姿勢を表明した。

しかし、実際に戦闘行為が止まった地域はわずかだ。たいていは一方的な休戦の意思表示にすぎず、相手方がそれに応じることはなかった。コロンビアのELNは休戦を表明したが、政府が応じないとして戦闘を再開した。リビアとイエメンでも、すぐに約束が破られた。フィリピン政府と新人民軍の休戦協定も4月で期限が切れた。

こうしたなか、タリバンは戦闘停止を拒み続け、むしろ攻撃を激化させている。政府側は、暴力がエスカレートすれば医療従事者が仕事できなくなると警告している。タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は「われわれの支配地域で感染拡大が起きれば、その地域での戦闘は停止する」と表明したが、もう感染は現実に起きている。タリバンが支配する西部ヘラート州の一部はアフガニスタンにおける感染拡大の中心地だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、「NATO攻撃の意図なし」法的文書で確認の

ワールド

モスクワで車爆発、ロシア軍幹部死亡 捜査当局「ウク

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中