中国は早くから新型コロナウイルスを知っていたのか?2019年9月26日の「湖北日報」を読み解く
湖北日報に書いてある「訓練」も含め、世界各地で年間200件も同様のイベントが行われているということには驚きを禁じ得ない。逆に言えば、湖北日報に書いてあるイベントなど、世界200件の中の一つに過ぎないことを認識しなければならない。
たしかに湖北だけでも2019年に2回あり、一回目は2019年4月25日で、ここではコロナウイルスの一つであるMERSに関する演習が行われている。
ここにあるように、イベント201は、コウモリから豚へ、豚から人へと感染する「新型人獣共通感染コロナウイルス」の発生をシミュレートし、最終的には人から人へと効率的に感染が広がり、深刻なパンデミックを引き起こすことになると書いてある。
本稿で重要なのは、アメリカでも同時に「新型コロナウイルス」の思考実験を行っていたということである。このウイルス名には「人獣共通感染」という言葉まであり、実にリアルだ。
怖いのは、シミュレーションに関して以下のように書いてあることだ。
――全人類が影響を受けるため、パンデミックの初期の数ヶ月間は、累積症例数が指数関数的に増加し、毎週2倍になる。そして、感染やその死者が累積していくにつれて、経済的あるいは社会的な影響はますます深刻になっていく。シミュレーションのシナリオは18ヶ月後に6500万人が死亡した時点で終了する。(引用ここまで)
まるで、現在起こっているパンデミックを表しているようではないか。
「18ヵ月後」ということは「1年半」かかることになる。ごめんだ。
さらにゾッとするのは報告の最後に以下のように書いてあることである。
――パンデミックは、有効なワクチンが存在するまで、あるいは世界人口の80~90%が感染するまで、ある程度の割合で継続する。そこから先は、小児の風土病のようになるかもしれない。(引用ここまで。)
アメリカでは最近、子供の感染者にKAWASAKI病のような症状が現れているという。
EVENT201のシミュレーションが、まるで予言者のようで身震いがする。
以上、ついつい学術的関心に引きずられてしまったが、2019年9月26日付けの「湖北日報」に「新型のコロナウイルス」という言葉があったことを以て、「中国が早くから現在の新型コロナウイルスの存在を知っていた」などという結論を導き出し、論を張ったりすると、米中攻防の中で、完全なアメリカの敗北を招くことにつながるので、もう少し見識を広め、科学的に謙虚な姿勢で真相を分析していかなければならないことが見えてくる。
自戒を込めて、警鐘を鳴らしたい。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。