最新記事

欧州政治

難民危機で台頭しウイルス危機に敗れたドイツ極右

Coronavirus Has Paralyzed Europe’s Far Right

2020年4月15日(水)17時55分
エミリー・シュルタイス

ドイツはおそらく、この新たな動きと事態の急変を示す恰好の例だ。新型コロナウイルスが関心の的となるわずか数週間前、ドイツは、AfDの直接・間接的な政治的影響について論争の渦中にあった。

そのきっかけとなったのは、2月5日に行われた旧東ドイツ地域にあるチューリンゲン州の州首相選挙。与党キリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)という2つの中道右派政党が、左派の現職を追い出すためにAfDと共同戦線を張った。

極右政党と組むというタブー破りのこの選挙戦略で、メルケルが後継者に選んだCDUの党首は辞任に追い込まれ、ドイツ全体で政治と社会におけるAfDの役割を懸念する機運が高まった。

この州選挙から間もない2月19日、右翼の過激派がドイツ西部ヘッセン州ハーナウのシーシャ(水たばこ)バーで、移民の背景をもつ9人を射殺した。この事件は、反移民の発言が、右翼の過激派に与える影響という問題を提起した。

国民感情に訴えるこの問題は、その後数か月にわたってドイツの政治的な議論の中心になると見られていた。そこへ登場したのが、新型コロナウイルスだ。国民の注目は完全にウイルスに移った。

薄れたSNSの熱気

当初、AfDの政治家はウイルスの侵入を防止するための国境の閉鎖を国民中心主義の勝利と喝采を送った。党の幹部ベアトリクス・フォン・シュトルヒは、このウイルスが「国境のないグローバリゼーションの失敗」を証明したと語り、新しい国境管理を永続させることを求めた。

だがその後数週間、AfDと所属政治家たちはさまざまな議論に口を出して混乱した。ウイルスの大流行への対応が遅かったとメルケルを非難する一方、対応策が厳しすぎて権威主義的だと言う者もいた。党内の穏健派と過激派が内紛を起こした。ドイツの大学におけるジェンダー研究プログラムを激しく攻撃し、パンデミックの最中でもイースター(復活祭)の日曜日にはミサを行うべきだと教会に要求するなどして反発を買った。

AfDの政治家は最近、コロナウイルスとの闘いに関する10項目の政策要綱を発表したが、それはいくつかの小さな例外を除けば、他の政党や政治家が提案した措置とほぼ変わりのないものだった。検査能力の向上、医療従事者のための追加の防護用品の製造、リスクの高い市民の保護といった政策はどの党も同じだし、斬新な提案でもない。

これまでソーシャルメディアで活発だった支持者層も、今はそれほどAfDに対して熱狂的ではないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中