難民危機で台頭しウイルス危機に敗れたドイツ極右
Coronavirus Has Paralyzed Europe’s Far Right
ドイツはおそらく、この新たな動きと事態の急変を示す恰好の例だ。新型コロナウイルスが関心の的となるわずか数週間前、ドイツは、AfDの直接・間接的な政治的影響について論争の渦中にあった。
そのきっかけとなったのは、2月5日に行われた旧東ドイツ地域にあるチューリンゲン州の州首相選挙。与党キリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)という2つの中道右派政党が、左派の現職を追い出すためにAfDと共同戦線を張った。
極右政党と組むというタブー破りのこの選挙戦略で、メルケルが後継者に選んだCDUの党首は辞任に追い込まれ、ドイツ全体で政治と社会におけるAfDの役割を懸念する機運が高まった。
この州選挙から間もない2月19日、右翼の過激派がドイツ西部ヘッセン州ハーナウのシーシャ(水たばこ)バーで、移民の背景をもつ9人を射殺した。この事件は、反移民の発言が、右翼の過激派に与える影響という問題を提起した。
国民感情に訴えるこの問題は、その後数か月にわたってドイツの政治的な議論の中心になると見られていた。そこへ登場したのが、新型コロナウイルスだ。国民の注目は完全にウイルスに移った。
薄れたSNSの熱気
当初、AfDの政治家はウイルスの侵入を防止するための国境の閉鎖を国民中心主義の勝利と喝采を送った。党の幹部ベアトリクス・フォン・シュトルヒは、このウイルスが「国境のないグローバリゼーションの失敗」を証明したと語り、新しい国境管理を永続させることを求めた。
だがその後数週間、AfDと所属政治家たちはさまざまな議論に口を出して混乱した。ウイルスの大流行への対応が遅かったとメルケルを非難する一方、対応策が厳しすぎて権威主義的だと言う者もいた。党内の穏健派と過激派が内紛を起こした。ドイツの大学におけるジェンダー研究プログラムを激しく攻撃し、パンデミックの最中でもイースター(復活祭)の日曜日にはミサを行うべきだと教会に要求するなどして反発を買った。
AfDの政治家は最近、コロナウイルスとの闘いに関する10項目の政策要綱を発表したが、それはいくつかの小さな例外を除けば、他の政党や政治家が提案した措置とほぼ変わりのないものだった。検査能力の向上、医療従事者のための追加の防護用品の製造、リスクの高い市民の保護といった政策はどの党も同じだし、斬新な提案でもない。
これまでソーシャルメディアで活発だった支持者層も、今はそれほどAfDに対して熱狂的ではないようだ。