パンデミックの次は食糧危機の懸念──国境封鎖と食品サプライチェーン崩壊で
「必要不可欠」と認められ、移民の地位が向上
他方、パンデミックのおかげで待遇が多少改善されたのがアメリカの「未登録移民」だ(アメリカやカナダでは久しく「不法移民」という言い方はしない)。アメリカでの収穫作業の大半が未登録移民によるというのは公然の秘密であり、そのほとんどがメキシコ人だ。ニューヨークタイムズ紙のレポートによると、農業省の発表では全米の収穫人の約半数である100万人以上が未登録移民であり、生産者と労働請負業者の推定ではさらに多い約75%といわれる。それでも人手不足は深刻だ。
今回のパンデミックで農産物収穫が国土安全保障省から「必要不可欠」と認められ、未登録移民たちは雇用主から証明書を得た。これは法的な滞在を保障するものではないが、それでも移民たちのあいだで安堵感が広まっているようだ。また3月18日、移民・関税執行局は一般的な未登録移民ではなく犯罪関連にその対象を一時的にシフトすることを宣言している。
滞在許可の有無にかかわらず、これらの移民たちは長いことアメリカ社会の重要な歯車の一部であり、その子供たちのほとんどがアメリカ生まれだ。未登録移民の存在を認め、寛容な政策をとるのが北米の聖域都市の考え方だが、現アメリカ大統領の考えが異なるため一部の移民がメキシコに戻ってしまったことなども人手不足の原因のようだ。
しかし、今回必須と認められても、未登録移民たちは政府による新型コロナ救済パッケージの対象にはならない。英語を解さない労働者も多く、また工場などでは密集した状況になるため、良心的な雇用主たちは独自に労働者を啓蒙したり、病気保障を提供したりしているようだ。
ただ、ワシントン州やニューヨーク州などで今学年度すなわち8月末までの学校閉鎖がすでに決定されており、ランチ用野菜パックなどの需要がなくなったため、労働者たちも時短を強いられている。感染の他にも、生活費確保の問題が残っているようだ。
一方、食肉業界でも、アメリカやカナダのかなりの工場が従業員感染や労働者不足のため現在一時的に閉鎖されている。フードサプライシステムの脆弱さが懸念されている。