最新記事

農産物

パンデミックの次は食糧危機の懸念──国境封鎖と食品サプライチェーン崩壊で

2020年4月14日(火)18時00分
モーゲンスタン陽子

そしてこの時期は、ドイツ人が愛してやまない白アスパラガスの季節だ。ところが今年は移動制限により東欧からの季節労働者が来られないため、収穫ができない事態に直面している。不足労働者数は30万人。野菜や果物は痛みを避けるため、やはりどうしても人間の手で行われなければならない。結局、4月、5月で特別許可を得た季節労働者を4万人ずつ東欧から呼び寄せることとなり、10日、第一陣がルーマニアから飛行機で到着した。

政府は収穫作業を手伝える人を市民から募っているが、実は募集をかけていない農家などにも応募が殺到しているという。レストランやバーなどでアルバイトができなくなった学生たちだ。だが、手慣れた季節労働者たちと違い、学生たちには収穫方法を一から教えていかなければならない。そのせいか、スーパーでの価格は例年より高く、また農家の直売りの場合昨年の2倍というところもあるようだ。

なお、先にも触れたじゃがいもだが、白アスパラガスの付け合わせの定番でもあり、保存性もあることから、現在家庭での需要は増えている。しかしながら、フライドポテト加工用のじゃがいもは食卓用として流通させることが難しいという。ドイツのじゃがいも産業は農家たちと一緒に解決策を探しているようだが、隣国オランダでは何百万トンもの余剰のじゃがいもを家畜の餌用に格安で販売しているらしい。同国の農業がパンデミックで受けた損失は60億ユーロにも上るという。

ドイツのスーパーから農産物が消える?

これまで、ドイツの野菜・果物は格安とも思われる値段だった。LidlやAldiなど大手ディスカウントストアの売り出しでは、夏ならきゅうり一本30セント、オレンジ1キロ1ユーロなどだ。ReweやEdekaなどのスーパーでは、季節に関係なく一年中同じ野菜や果物が手に入る。

これらのほとんどはスペインとイタリアから届いている。スペイン南部のアルメリア地方には400キロ平方メートルの世界一広大な温室施設が広がる。その最大の顧客はドイツだ。年間約38億ユーロ/1350万トンをドイツに輸出しているが、そこで働く約13万の収穫人のほとんどがアフリカからの不法移民だ。彼らの置かれた苦境は2018 年の独テレビ局ARDのドキュメンタリーに詳しいが、雨が降ったら室内が水浸しになるようなスラムに押し込まれ、各種保障ももちろんなく、時給にして2ユーロ程度で長時間の肉体労働を強いられている。強大なドイツのスーパーマッケットチェーンにより生産者側が低価格を強いられているのも原因だ。ドイツにて地産の農産物を購入するには懐が痛むが、こういった背景を考えると、スーパーの安い農産物を購入するのには胸が痛む。

パンデミック拡大のなか、ドイツからの農産物の需要は増えている。一方、外出制限中のスペインで、収穫作業は「必要な仕事」と認められてはいるものの、制限のため車両の乗り合いができなくなったこと、また取り締まりは警察の恣意的な独断によることも多いようで、これを恐れる不法移民たちが出勤できないことも増えているという。

このような状態が続くと、ドイツのスーパーから農産物が消える日が本当に来るかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中