「不要不急の仕事」の発想がない日本は、危機に対して脆弱な社会
新型コロナは日本社会を変革する「黒船」になるのか Athit Perawongmetha-REUTERS
<日本人にとって失業は単に収入が途絶えるだけでなく、社会的な孤立を意味する>
新型コロナウイルスの感染防止のため、日本でも首都圏、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言が出され、外出自粛が呼び掛けられている。世界を見れば「不要不急の労働」を禁止する国も出てきた。南欧のスペインだ。
「不要不急の労働」という言い回しは、日本人にとっては違和感があるが、働くことをそこまで重視しないお国柄が出ているように思える。スペインの失業率は非常に高く、2ケタは普通だ。それでも国民は、明るい太陽を浴びながら談笑したり、寝転んだりしている。
しかし日本は違う。失業のダメージは大きく、「失業=人生終了」という深刻さで考えられている。職を失っても命まで取られることはないのだが、思いつめて自ら命を断ってしまう人もいる。
統計データでも、失業と自殺は強く相関している<図1>。男性は特にそうで、失業率と自殺率の時系列カーブを描くと、それがよく分かる。失業率とは、働く意欲のある労働力人口(15歳以上)のうち、職探しをしている失業者が何%いるかという指標だ。自殺率は、人口10万人あたりの自殺者数をさす。
戦後70年間の統計データだが、気味が悪いくらいシンクロしている。90年代半ばの経済悪化期に激増し、最近の好況期では下がっているのもそっくりだ。1953〜2018年の66年間のデータで相関係数を出すと、+0.8821にもなる。非常に強い相関で、失業率が分かれば自殺率をほぼ正確に言い当てられるレベルだ。
失業率(X)と自殺率(Y)の関係式を出すと、Y=4.184X+14.152 となる。Xの係数から、失業率が1%上がると自殺率が4.2ポイント上がることが分かる。男性人口を6000万人とすると、失業率1%アップで自殺者が2520人増える計算だ。2%アップで5000人、4%アップで1万人の自殺者が出る。寒気がするデータだが、コロナにより各地で雇い止めが起きていることを思うと、失業率2%(もしくは4%)上昇はあり得ないことではない。
失業率1%の重み。日本人にすれば「さもありなん」だが、諸外国、とくに労働禁止令を出したスペインの人にすれば理解できないかもしれない。「どうして自殺までしなければならないのか」と。