最新記事

中国

中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?

2020年3月18日(水)18時10分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

武漢から爆発的に湧き上がる感染者の全国拡散を食い止めるには、先ず武漢を封鎖すること。そのアドバイスも直接李克強に与え、李克強から習近平に伝えられて断行に至った。

しかし溢れ出る患者の数と病院のベッド数がバランスを崩すと医療崩壊を起こす。

そこで何が何でも医療従事者と医療施設を火急速やかに整備しなければならないと陣頭指揮を執ったのも鍾南山だ。SARSの時に北京に作らせた方艙(ほうそう)医院(野外病院のような緊急対応のコンテナ病院)である小湯山と同じ発想のものを武漢に突貫工事で作らせた。

最初は重症患者を入院させる火神山医院と雷神山医院を10日間ほどで建ちあげ、軽症患者には自宅隔離を命じたが、自宅にいて家族に感染させたり、全く外出しないというわけにはいかないので周辺住民にも感染が広がったり、軽症者が重症化するケースも目立った。

これでは感染は防げないということで、方艙医院を増築させ、16棟にまで至っている。それでも足りずに体育館や市民会館など使えるものは全て使って患者を全て収容した。重症化した場合も対応がスムーズにいった。

そしてマスク着用、アルコール消毒などを市民に徹底させ、未感染者に感染することを防ぎ、徹底した「早期発見」と「早期治療」を可能ならしめるために、ともかく検査キットの緊急な充足を断行させた。

医療従事者の確保「一省包一市」を提案

しかし何万人といる患者を誰が診るのかという問題が当然起こる。

そこで着想したのが3月15日の<欧州などに医療支援隊を派遣する習近平の狙い:5Gなどとバーター>に書いた「一省包一市」方式である。感染者は武漢市から湖北省全体に広がっていたので(湖北省もほぼ封鎖に近い隔離状態になっていたが)、中国全土の19の省(直轄市・省・自治区)から医療支援部隊を湖北省の16の地区にそれぞれ派遣して医療体制を補完し構築したのである。武漢市には全国の医療部隊が集中的に派遣されており、人民解放軍の医療部隊も総動員された。その数は2月28日の時点で総計4万人強である。

「習近平の権威」と「鍾南山の実力」との関係

習近平としては鍾南山が「民族の英雄」として人民の尊敬を集めるのは面白いことではないが、しかしウイルスによって一党支配体制が崩壊してしまうのは最も恐れていることである。ウイルスが蔓延すれば、一党支配体制は間違いなく崩壊する。民主主義国家ではないので、中国共産党等の政権が崩壊すれば、政権交代ではなく、「国家が崩壊する」。それが一党支配体制の脆弱性だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中