最新記事

EU

欧州のコロナ危機にマクロ経済政策は効果なし

MANAGING THE CRISIS

2020年3月16日(月)19時25分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)

国境で入国する人々の検温を行うチェコの係官 ARMIN WEIGEL-PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<イタリアを筆頭に感染が拡大するヨーロッパでは、景気後退に備える金融・財政政策を求める声が高まっているが、利下げよりも効果的な対策はある>

新型コロナウイルスの感染拡大に欧米の金融市場が動揺するなか、景気後退に備える積極的な金融・財政政策を求める声が高まっている。だが今の状況では、そうした施策の効果は期待できない可能性がある。

このウイルスの流行の特徴は「不確実性」だ。厳密に言えば今回の危機は、予想が難しく、かつ起きたときの影響が甚大な事象を指す「ブラック・スワン」ではない。しかし数カ月前には予想もできなかった状況が世界を覆っており、今後の展開も予測がつかないことは明らかだ。

いまウイルス感染は、西に広がっているようだ。震源地の中国では当局が大胆な対策を取って以降、感染は封じ込められつつある。だがアメリカやヨーロッパでは、新型コロナショックが広がり始めたばかりだ。特にユーロ圏では、経済への深刻な打撃が避けられそうにない。

感染拡大による財政面への影響は対処可能に思える。最も状況が深刻なイタリアでも、EUの財政規則の範囲内でウイルス封じ込めのために歳出を増額できそうだ。

ただ、イタリアは全土が移動制限の対象となり、経済全体が影響を受けている。増額幅が大きくなれば、EUはイタリアに財政赤字の拡大を許容するだけでなく、「例外的事態」に直面した加盟国に対する財政支援を行うことになる。

ウイルスの感染拡大が予想されるなかで、他のEU諸国も対策を取らざるを得なくなる。その場合、交通や観光産業といった重要な経済活動に損失が出る。さらに、企業の財務状況が悪化することも懸念される。

幸いにも大半のEU加盟国には、経営者の力が及ばない理由によって労働力がだぶついたときに、労働者の報酬を保障する制度がある。そのため、長期に及ぶ消費の落ち込みは避けられるとみていい。

それでもユーロ圏の経済を危うくしそうな要因が2つある。1つは世界的な貿易活動の大減速。EUの力だけではどうしようもない。もう1つは投資の落ち込み。こちらにはEUが取るべき対抗策がある。

2010年のヨーロッパ債務危機では、金融市場が機能不全に陥ると投資も落ち込んだ。ヨーロッパでは銀行を通じた投資が中心となっている。危機に際しては金融部門の投資を活発に保つことがカギになる。

そこで、銀行の融資基準の調整が必要だ。EUでは欧州中央銀行(ECB)の監督権限が強化されたことで、商業銀行の融資基準は厳しくなっている。しかし今回もこの方針を貫けば、融資を受けられたはずの企業を見殺しにしかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中