インドネシア、ゾウに襲われ兵士死亡 村人に野生生物との共生教えていた男がなぜ......
人間との共存が課題の野生動物
南スマトラ州自然保護局などによると、イスカンダール軍曹を踏みつけて殺害したスマトラゾウはベランティ村周辺を生息域とする野生のスマトラゾウとみられる。同村周辺には確認されただけでも約120頭のスマトラゾウが生息しているという。
同保護局などの統計では2013年から2019年までに報告された野生動物と村人ら人間との問題は多く、スマトラゾウのケースが37件で、それ以外にスマトラトラ26件、マレーグマ20件、ワニ14件となっており、同州ではゾウ以外にも多種の野生動物と人間との問題が起きていることが明らかになっている。
問題の多くはスマトラ島などでもはや風物詩的存在となっている森林開発や焼き畑農業によるジャングルなど野生動物の生息環境の削減が背景にあり、生息区域やエサを求めてジャングルから人家のある村落や畑、農園などに出没することになり、結果として農民、村人、農園労働者との衝突、対立が増加していると分析している。
インドネシア野生ゾウ保護フォーラムによると、1980年には2800〜4800頭の生息が確認されていたスマトラゾウはその後減少の一途をたどり、現在は約2000頭とされている。別の団体の推計では1720頭という数字も示されている。
GPSや夜間パトロールで行動を監視
こうした事態にスマトラ島のリアウ州では1月22日に民家や農地に頻繁に姿を現すソマトラゾウの1群11頭に対し、行動を監視する目的で「GPS発信機」を装着する試みも行われた(「インドネシア、GPS装着でゾウの行動追跡 絶滅の危機にあるスマトラゾウ保護策」)。
同じスマトラ島のスメランティハン村では住民が協力して夜間巡回をして村人の居住区域に夜間野生動物が近づいたり進入したりしないように警戒を続けている。他の地域と同じように、スマトラゾウだけではなく、スマトラトラやオランウータンも対象であるという。
同村でのこうした夜間の巡回はすでに4年目を迎えているというが、こうした住民の行動やGPS装着などで野生動物、とくに絶滅の危機に瀕した希少動物などとの無用な接触、衝突を避ける知恵を絞った方策が試みられている。
こうした方法は野生動物減少のもう1つの原因とされる「不法な密猟」を防いだり密猟者を検挙したりするにも有効とされおり、スマトラ島各地での試行錯誤への期待が高まっている。
ベランティ村で村人のために犠牲となったイスカンダール軍曹のためにも人間と野生動物の共存できる環境整備がさらに進むことを祈りたい。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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