最新記事

アメリカ社会

過密状態の米刑務所は新型コロナウイルスの餌食

U.S.Coronavirus May Cause 'Public Health Catastrophe' in Jails

2020年3月12日(木)16時20分
ブレンダン・コール

アメリカの刑務所はウイルス拡散の温床になりかねない Lucy Nicholson – REUTERS

<死ぬリスクの高い慢性疾患をもつ高齢者から釈放せよ、と権利団体が訴え>

アメリカの刑務所改革を求める権利擁護団体「ザ・センテンシング・プロジェクト」は、全米の刑務所で過密状態にある監房が、新型コロナウイルスの急速な感染拡大を招く可能性があると警告した。民主党の上院議員らも、刑務所当局に、感染者発生に対処するための緊急事対応策を明らかにするよう求めている。

ザ・センテンシング・プロジェクトは公安当局に、未決拘禁中の被疑者や更生した受刑者など、社会に危険をもたらさない人々の釈放を求めている。

「拘置所と刑務所は現在、不衛生かつ過密な状態にあり、新型コロナウイルス感染拡大の温床になるだろう」と、同プロジェクトの上級調査アナリスト、ナズゴル・ガンドノーシュは本誌の取材に答えた。

「高齢の収容者は社会に危険をもたらすことはほとんどないが、慢性疾患にかかっている割合が非常に高い。だからコロナウイルス感染で死亡するリスクが最も高い」

<参考記事>ついにアメリカでも火がついた新型コロナ危機「数百万人が感染しかねない」と米高官

釈放して過密状態を解消せよ

「時間こそが、アメリカの刑務所と拘置所におけるウイルス感染拡大の大惨事を回避するカギになる。感染の危険がある間、釈放して収容者の健康を守るべきだ。そうすれば刑務所職員が重病者を看護する負担も軽くなり、限りのある医療資源の節約にもなる」と、ガンドノーシュは語った。

受刑者の権利擁護運動に関わる人々は、同様の懸念を表明している。彼らが恐れているのは、全米の刑事施設で暮らす約220万人の収容者の間でウイルスが蔓延することだ。

<参考記事>新型コロナの感染対策で日本の後を追うアメリカ

米自由人権協会(ACLU)国立刑務所プロジェクトのマリア・モリスは、ニュースサイト「コモン・ドリームス」の3月9日の記事で、刑務所には外からスタッフや訪問者が常に出入りしてウイルスを持ち込む可能性があるし、訪問者が帰宅してウイルスを拡散するリスクもある、と書いた。

民主党幹部も先日、連名でコロナウイルス対策について問い合わせる書簡を連邦刑務所に送った。民主党大統領候補のバーニー・サンダース上院議員、予備選から撤退したカマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン上院議員なども署名している。

(翻訳:栗原紀子)

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中