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なぜフランスは「人質になったジャーナリスト」を英雄視し、日本は自己責任と切り捨てるのか

Passport Denial Is Social Death

2020年3月10日(火)16時20分
西村カリン(ジャーナリスト)

帰国後初の記者会見で頭を下げる安田純平(2018年11月) ISSEI KATOーREUTERS

<ジャーナリストの安田純平が旅券発給を求めて国を提訴。同じくシリアで人質になった経験のあるフランス人記者が「戦場記者への支持」について語った>

シリアで武装勢力に拘束され、2018年10月に解放されたフリージャーナリストの安田純平は今、パスポートの発給を拒否する国を相手取った裁判を、東京地裁に起こしている。3月3日の初弁論で、彼は緊張した様子で意見陳述書を読んだ。

「拘束中も帰国後もさまざまな事実誤認やデマ、ヘイトによる誹謗中傷が続いています。今でも『死ね』といった内容の匿名のメッセージやメールが送られてきます。そのため私は家族と安心して過ごせるよう海外旅行を計画し、旅券の発給を申請しました。しかし私の申請は外務省によって拒否されました」。

次回期日は5月の予定で、外務省がどう答えるか注目だ。安田の帰国時は解放を喜ぶ声が上がる一方、退避勧告の出された地域に入ったことで「政府に迷惑をかけた」というバッシングも強かった。

これはフランスの例と対照的だ。同じくシリアで拘束され、14年4月に解放されたフランス人フリージャーナリストのニコラ・エナンの場合、帰国後はほとんど英雄扱いされた。日本在住のフランス人フリージャーナリストの西村カリンが、エナンに話を聞いた。

――3年4カ月間、シリアで人質になっていた安田純平は帰国時に厳しく批判された。

ショックだ。ジャーナリストは趣味や観光で戦場に行くのではない。人質になるリスクを取るだけでなく、負傷したり、殺されたりする危険もあり、行くか、行かないかはいつもジレンマだ。

ただ、戦場で取材するのは報道の自由であり、ジャーナリストがどこに行けるかを判断するのは国や政府ではない。一方で、記者が人質になった場合、国際危機になることも本人は知っていなければならない。

つまり、彼は国家安全保障に対する莫大な責任がある。テロリストたちは彼の国に圧力をかけるからだ。フランスでは、テロリストグループとの交渉は国の独占権だ。いわゆる「誘拐身代金保険」の制度はない。

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