新型肺炎の流行地にウイグル人労働者を送り込む中国政府の非道
CHINESE FORCED LABOR EXPOSED
当局はあくまで「脱貧困のため」で、本人の意思だとの建前を取っている。だが、巨大強制収容施設を各地に建造し、ウイグル人を収容して「愛国教育」を強制してきたここ数年の情勢から、ウイグル人が断れるはずはない。強制収容によって、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の経済活動は徹底的に破壊された。干しブドウやじゅうたん・伝統工芸品の生産活動もできなくなっている。そうしたなか、出稼ぎに行く以外に、彼らが選択できる道はあるだろうか。新型肺炎への感染を恐れ工場再稼働に中国人労働者が集まらないのを補塡するため、「国策」としてウイグル人を派遣しているとしか考えられない。
新疆からウイグル人の医療従事者が武漢に大勢派遣されていることも把握されている。ネット上に公開された映像には、防護服を着て、入院患者の前でウイグル民族舞踊を踊る医療従事者や、乳飲み子や幼子を置いて武漢に派遣されたウイグル人女性医療従事者が、涙を流して語っているものもある。武漢には中国各地から医療従事者が派遣されているが、そもそも「職業訓練センター」を騙(かた)る強制収容所で、多くのウイグル人の感染症が出ているとの証言もある。そうしたなか、なぜウイグル人医療従事者が武漢に行かなければならないのか。
ウイグル人の生存権と人権が、漢民族とせめて同程度に、中華人民共和国で保障されることを切に願う。
水谷尚子
NAOKO MIZUTANI
明治大学准教授。中国現代史研究者。ウイグル民族研究に取り組む。著書『中国を追われたウイグル人── 亡命者が語る政治弾圧』(文春新書)が2008年にアジア・太平洋賞を受賞。
<本誌2020年3月17日号掲載>
【参考記事】ウイグル人迫害を支えるDNAデータ収集、背後に米企業の陰
【参考記事】ウイグル弾圧で生産された「新疆綿」を日の丸アパレルが使用?
2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。