最新記事

ウイグル弾圧

新型肺炎の流行地にウイグル人労働者を送り込む中国政府の非道

CHINESE FORCED LABOR EXPOSED

2020年3月10日(火)17時10分
水谷尚子(明治大学准教授)

当局はあくまで「脱貧困のため」で、本人の意思だとの建前を取っている。だが、巨大強制収容施設を各地に建造し、ウイグル人を収容して「愛国教育」を強制してきたここ数年の情勢から、ウイグル人が断れるはずはない。強制収容によって、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の経済活動は徹底的に破壊された。干しブドウやじゅうたん・伝統工芸品の生産活動もできなくなっている。そうしたなか、出稼ぎに行く以外に、彼らが選択できる道はあるだろうか。新型肺炎への感染を恐れ工場再稼働に中国人労働者が集まらないのを補塡するため、「国策」としてウイグル人を派遣しているとしか考えられない。

新疆からウイグル人の医療従事者が武漢に大勢派遣されていることも把握されている。ネット上に公開された映像には、防護服を着て、入院患者の前でウイグル民族舞踊を踊る医療従事者や、乳飲み子や幼子を置いて武漢に派遣されたウイグル人女性医療従事者が、涙を流して語っているものもある。武漢には中国各地から医療従事者が派遣されているが、そもそも「職業訓練センター」を騙(かた)る強制収容所で、多くのウイグル人の感染症が出ているとの証言もある。そうしたなか、なぜウイグル人医療従事者が武漢に行かなければならないのか。

ウイグル人の生存権と人権が、漢民族とせめて同程度に、中華人民共和国で保障されることを切に願う。

NAOKO_MIZUTANI.jpg水谷尚子
NAOKO MIZUTANI
明治大学准教授。中国現代史研究者。ウイグル民族研究に取り組む。著書『中国を追われたウイグル人── 亡命者が語る政治弾圧』(文春新書)が2008年にアジア・太平洋賞を受賞。

<本誌2020年3月17日号掲載>

【参考記事】ウイグル人迫害を支えるDNAデータ収集、背後に米企業の陰
【参考記事】ウイグル弾圧で生産された「新疆綿」を日の丸アパレルが使用?

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

レゾナック、1―9月期純利益は90%減 通期見通し

ビジネス

三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過去最高

ビジネス

日経平均は続伸、景気敏感株上昇 TOPIXは最高値

ワールド

米公民権運動指導者ジャクソン師、進行性核上性麻痺で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中