最新記事

韓国社会

韓国の新興宗教、新型コロナが浮き彫りにした闇の側面とは?

2020年3月9日(月)20時30分
ロバート・デービーズ

新天地イエス教会の教祖は土下座して謝罪したが……(3月2日) YONHAP-REUTERS

<なぜ韓国には、風変りな教義と熱狂的な信者、秘密主義的な信仰を持つキリスト教系の新興宗教が珍しくないのか。「新天地イエス教会」の集団感染を機に、韓国流の信仰の在り方が問われている>

韓国で新型コロナウイルス流行の中心になったのが「新天地イエス教会」という新興宗教団体だったとのニュースは、世界で驚きをもって受け止められた。

しかし、韓国の社会史や宗教史に詳しい人たちは驚いていない。韓国には、風変わりな教義と熱狂的な信者、秘密主義的な信仰を持つキリスト教系の新興宗教団体が珍しくないのだ。

最も有名なのは、メシア(救世主)を自称する文鮮明(ムン・ソンミョン)がつくった旧統一教会(現在は世界平和統一家庭連合に改称)だろう。世界全体の信者数は300万人とも言われる。スタジアムを信者で埋め尽くして行う合同結婚式で有名だ(文は2012年に死去)。

終末論を説く申玉珠(シン・オクジュ)が創設した「グレースロード教会」は、大飢饉を逃れるためと称して南太平洋のフィジーに信者たちと移住した。しかし、申は信者への暴行や監禁、児童虐待などで逮捕され、禁錮6年の刑を言い渡された。

新興宗教団体の影響力は、権力の中枢にも及んでいる。キリスト教に仏教と韓国の伝統的なシャーマニズムを融合させた新興宗教団体をつくった崔太敏(チェ・テミン)は、長年にわたって朴槿恵(パク・クネ)前大統領の相談役的な存在だった(崔は1994年に死去)。朴政権の影の権力者とされ、その地位を利用して私腹を肥やしたと問題になった崔順実(チェ・スンシル)は、太敏の娘だ。

韓国のキリスト教は、アメリカで一般的なプロテスタントの影響が強い。韓国にキリスト教が根付く上では、アメリカの長老派の宣教師たちが果たした役割が大きかった。

世論の怒りは収まらない

やがて、主流派のキリスト教会とは異なる教義を持つ新興宗教団体が続々と登場し始める。それは、アメリカで超保守派のキリスト教団体が勢力を広げているのとどこか似たところがある。

シャーマニズムの影響も無視できない。韓国では、キリスト教主流派の教会でも信者がトランス状態になることが珍しくない。そうした熱烈な信仰は、この国にキリスト教が伝わる前から存在する信仰と切り離せない関係がある。

今も多くの韓国人は何らかのシャーマニズムを信じていて、教育水準の高い財界人までもが「悪魔ばらい」のようなことをシャーマンに依頼したりする。こうした古い信仰がキリスト教と融合することにより、熱狂的な新興宗教団体が生まれているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国首相、的を絞った景気刺激策に意欲  消費促進に

ワールド

ウクライナ恒久平和「強固な安保必要」、欧州が要役=

ビジネス

米新規失業保険申請、5000件の小幅増 労働市場の

ワールド

訂正-NASA、幹部4人が退職へ 有人月探査計画不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中