最新記事

中東和平

トランプ新和平案が浮き彫りにした中東の地殻変動

THE PARADIGM SHIFT ON PALESTINE

2020年2月29日(土)17時00分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)

ヨルダン川西岸ではパレスチナ人の町にイスラエルの入植地(手前)が隣接する Ammar Awad-REUTERS 

<今やアラブ圏にとってパレスチナの窮状は重荷で、イスラエルとの和解の障害になっている>

トランプ米大統領が発表した中東和平案が大幅にイスラエル寄りだったことは、驚くような話ではない。むしろ驚いたのは、世界までもがトランプ案にノーを言うどころか、パレスチナ人を見捨てようとしていることだ。

トランプの和平案はパレスチナ人の「生活の向上」という要望を却下し、領土にまつわるイスラエル側の国民的物語をそのまま受け入れている。パレスチナ人が国家を樹立したとしても、領土はガザ地区と、ヨルダン川西岸の約7割だ。イスラエル入植地が点在し、イスラエル領に囲まれる形になる。首都はパレスチナ側が求める東エルサレムではなく、その郊外。パレスチナ人はイスラエル側が定める「イスラエルの安全に悪影響を及ぼす」活動を企図したり、軍隊を持つことを禁じられる。

このような著しく不公平な提案を示すことで、トランプは仲介者としてのアメリカの信用を傷つけた。さらにはイスラエルとパレスチナの間で国際的合意に達した和平プロセスの原則を台無しにした。パレスチナ人を見捨てようとしている世界の国々の姿を見れば、トランプが11月の大統領選に負けて後継者が和平案を破棄しても、この損失を取り戻すのは難しいだろう。

ゆがんだ和平案がまともに受け止められているという事実は、中東で進む大きな変化の表れだ。かつてはパレスチナ人と連帯することで、断片化していたアラブ世界がつながっていた。しかし今、アラブ世界にとってパレスチナの窮状は重荷であり、イスラエルとの和解の障害になっている。

確かにアラブ連盟は2月初め、カイロでの外相会合でアメリカの和平案を拒否した。だが和平案は、一部アラブ諸国の「共犯と裏切り」なしには現実にならなかった。

トランプ案支持に各国の思惑

バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦の駐米大使は和平案発表の日にホワイトハウスに駆け付け、和平案を承認していることを示した。さらに、サウジアラビアはパレスチナ人を支援するという主張を改めて行っているのに、「トランプ政権の努力を評価する」姿勢を明らかにした。

ヨルダンのアブドラ国王は、イスラエルのヨルダン渓谷併合は深刻な安全保障上の影響を及ぼすと語った。だがその後、「グラスに水が半分入っていることのほうを注目すべき」と肯定的な見方を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

対中ビジネスに様々な影響が出ていることを非常に憂慮

ワールド

中国、26年も内需拡大継続へ 積極政策で経済下支え

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、10月は前月比+1.8% 予想上

ビジネス

独30年国債利回りが14年ぶり高水準、ECB理事発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中