最新記事

米ロ関係

エスカレートする軍事演習......アメリカとロシアの新冷戦が近づいている

Is the Cold War Back?

2020年2月21日(金)19時00分
ウィリアム・アーキン(軍事アナリスト)

フィンランド付近での多国間合同軍事演習に参加した米海兵隊の戦車(2019年5月) LANCE CPL. SCOTT JENKINS/U.S. MARINE CORPS

<最大の敵はイランでも中国でもない──欧州で静かに高まるロシア軍との緊張関係>

昨年、イランとの緊張が最高潮に達していた頃、アメリカは軍事演習をこれまでに例がないほど連続して行っていた。演習は5月から9月末までの5カ月間にわたって29カ国の上空・周辺で実施され、その総数は実に93に上った。

演習では、地上部隊の作戦からサイバー攻撃までありとあらゆるものが試された。とはいえ中東で行われたわけではないし、イランを標的にしたものもなかった。ターゲットはロシアであり、冷戦終結後、最も内容が濃く、最も長い期間続けられた演習だった。

昨年のこの演習は、2014年3月のロシアによるクリミア併合を受けた軍事力増強の総仕上げと言える。なかでも目立ったのは、高性能兵器の訓練に力を入れた点だ。欧州での演習の回数は同時期に行われた中国関連の演習の約10倍で、仮想敵がロシアだったことは明らかだった。

「欧州の安全保障環境の悪化の陰で、NATOとロシア軍の演習の規模は劇的と言っていいほど増大している」と、NATO加盟国国会議員会議の委員会は10月の報告書で指摘した。この報告書によれば、ロシアの介入や攻撃を抑止するに足る地上軍をNATOが東欧に配備できていない点が懸念されるほか、ロシアが大々的に行った軍事演習の多くでは、欧州における戦争での核兵器使用がシナリオに含まれていたという。

一方で、アメリカと欧州の同盟国がロシアをはるかに凌駕している部分も多い。間断なく続けられる演習では、即時の航空機の展開と前方基地への分散が重要となる。特に昨年の演習では戦闘機と爆撃機の分散に力が入れられ、20年にわたる中東での戦争の中で磨かれた各国空軍の合同作戦力とともに、NATO側の地理的な優位性が示された。

こうした作戦や演習の目的は、昨年春にNATOのカーティス・スカパロッティ欧州連合軍最高司令官(当時)が米議会で証言したとおり、「敵から見た作戦の予測不可能性」を実現することにある。問題は、その代償だ。

すぐ近くで空爆演習も

こうした演習は、NATOが回避を望むはずの新たな冷戦をアメリカ側が引き起こしていることにほかならないのではないか。軍事演習がエスカレートすることで緊張が高まり、危険な思い違いを招きかねない方向に、双方を向かわせてしまうのではないか。

昨年5月、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当、当時)がイランからの「憂慮すべき、エスカレートする兆候」を理由にB52戦略爆撃機と空母エイブラハム・リンカーンを中東に急派したと発表した。だがその頃、欧州では記録的な規模の軍事演習が始まっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国経済運営は財政刺激が軸、中央経済工作会議 来年

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中