習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」
しかし、日本国憲法は基本的に日本国籍を持っている者に対して適用されるのであり、「日本人の出国禁止」を実行した場合は問題となることもあろうが、外国人の「入国禁止」を暫時実行することは、憲法違反にならないはずだ。また入管法や検疫法あるいは感染症予防法など既存の法律を組み合わせれば中国からの入国者を一時的に拒否することは可能だろうし、何なら「緊急事態対処法」を立法することも不可能ではないだろう。
2月19日付の産経新聞「正論」は駒澤大学名誉教授の西修氏の「新型肺炎、憲法レベルで議論を」という見出しの論考を掲載している。その中で筆者が注目したのは以下の点である(概要を書く)。
1.現行憲法に「緊急事態対処条項」が入れられなかったのは、GHQ(連合国軍総司令部)が「憲法には明示されていなくても行政府には緊急権が認められるので、それで対応すれば十分だ」という見解を示したからだ。
2.しかし、これは英米法(コモンロー)に基礎を置く考え方だ。
3.英米法の考え方は、法律に明示されていることしかできないという明治憲法以来の日本の法体系(筆者注:大陸法=シビルロー)と異なるので日本では通用しない。
この見解は実に正しく、まさにその通りだと思うが、しかし一方、たとえば日本の「金融商品取引法」はアメリカの指導の下にコモンローにシフトしており、大陸法を骨格とする日本国憲法の下、民事裁判なども「判例」を重んじるというコモンロー精神の方向にシフトしているのではないだろうか。
昨年燃え盛った香港問題に関しては、このコモンローなのか否かということが大きく関わっており、先述の田原総一朗氏とは、コモンロー(イギリス領だった香港)とシビルロー(ポルトガル領だったマカオ)に関しても大いに議論し「激突」した(大雑把に言えば、コモンローは法律に書いてなくても臨機応変に判例で動くし、シビルローは法律に条項として明記していないと動けないという特徴を持っている)。
なお、金融商品取引法の制定により日本でもコモンロー的な金融法制を取り入れる方向にシフトしてきたことは「社会イノベーション研究 第9巻第2号(2014年10月)」に藤倉孝行氏が「金融システムと法系論 -法的起源説からの一考察-」というタイトルで詳述しておられる。
金融分野で出来ることが、緊急事態対処という緊急性の高い分野でできないことはないのではないだろうか。
いずれにせよ、安倍首相が本気で対処しようと思えば、さまざまな方法があるはずだ。憲法などを口実に、習近平国賓訪日を重視して、日本国民の命を犠牲にすべきではない。
安心して日常生活を送ることもできないような状況を作らないことを最優先課題にすべきで、習近平の国賓来日などは中止させるべきなのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。