最新記事

新型コロナウイルス

中国企業、感染症対策の「新型ウイルス債」で銀行融資を返済 「火事場泥棒」に批判の声

2020年2月14日(金)12時10分

中国企業が、低利で資金を調達できる「新型ウイルス債」を利用して、財務体質の強化を図っている。写真は3日の上海の金融街(2020年 ロイター/Aly Song)

中国企業が、低利で資金を調達できる「新型ウイルス債」を利用して、財務体質の強化を図っている。

中国政府は新型コロナウイルス対策の一環で、起債の審査期間を通常の数週間から数日に短縮した「ウイルス予防・管理債」(新型ウイルス債)を導入。国有銀行に同債の購入を奨励しているため、企業は通常の社債を大幅に下回る金利で資金を調達できる。

ロイターの分析によると、同債を通じて総額140億元(20億1000万ドル)が調達される見通しだが、実際にウイルスの予防・管理のために利用される資金は全体の約3分の1にとどまるみられる。

一方、政府系の中国証券報は13日、一面に掲載した論説記事で、規制当局はウイルス予防・管理債の監視を強化し、一部の企業による「火事場泥棒」を防ぐべきだと主張した。

ある大手ガラスメーカーは、同債を通じて調達した資金の大半を銀行債務の返済に充てる計画。ある不動産開発業者は、調達した資金の大半を現預金の積み増しと債務返済に充てる予定だ。

同国では過去1週間で製薬会社、食品メーカーなど様々な企業が、銀行間市場を通してウイルス予防・管理債を発行すると発表している。

中国債券市場の規制機関である中国銀行間市場交易商協会(NAFMII)は先週、ウイルス予防・管理債について、調達した資金の一部をウイルス対策と関係のある商品(医療機器、ワクチン、医薬品、消毒剤など)の販売・製造に充てる必要があると表明。調達額の10%以上をウイルスの予防・管理に充てるよう求めた。

上海清算所は5日、ウイルス予防・管理債を発行した第1陣の企業が、情報開示からわずか1日で資金調達を完了したと表明した。

ガラス大手の福耀玻璃工業集団は、3年物の同債で6億元を調達する予定だが、このうち5億元は銀行融資の返済に充てる計画。調達額の10%に相当する6000万元は、感染地域に「欠かせない素材」である救急車用のガラス製造に充てると説明している。

広東省の不動産開発業者である華発集団は、新型ウイルス対策のために10億元を調達し、赤十字に2000万元相当の寄付をすると表明。調達した資金の半分は現預金の積み増しと債務返済に充てる方針だ。

豚肉生産の牧原食品は5億元を調達し、約半分を銀行融資の返済に充てると表明。残りの資金は、感染の拡大が続く間、食肉を十分に供給するために利用するとしている。

アモイ航空と深セン航空も、ウイルス予防・管理債を発行するが、資金の大半は債務の借り換えに充てる。

ウイルス予防・管理債で調達した資金を全額、新型ウイルス対策に充てると表明したのは、医薬品の天士力控股集団と九州通医薬集団の2社だけだ。

このうち九州通医薬集団は、新型ウイルスの発生源となった湖北省で最大の民間製薬会社。マスク、防護服、医薬品の供給で課題を抱えており、ウイルス予防・管理債の発行で10億元を調達する予定だ。利回りは同年限の短期国債利回りを92ベーシスポイント(bp)しか上回っていない。

調査会社クレジットサイツのアジア太平洋部門トップ、サンドラ・チャウ氏は、ウイルス予防・管理債について、信用緩和の一種だと指摘。大半の投資家は発行体の財務状況に注目するだろうとの見方を示した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中