最新記事

ポーランド

右傾化するポーランド、LGBT差別政策導入で問題に

2020年2月18日(火)17時15分
モーゲンスタン陽子

雑誌で「LGBTフリーゾーン」のステッカーを付録にし物議を醸した...... Kacper Pempel-REUTERS

<保守化・右傾化が進むポーランドでは、全国80以上の地方自治体で性的マイノリティへの差別的政策の導入が進められている......>

保守化・右傾化が進むポーランドで、性的マイノリティへの差別的政策の導入が進められている。全国80以上の地方自治体がLGBTなどの「異質のイデオロギー」を受け入れないとする「LGBTフリーゾーン」を宣言している。これに対し欧州議会は、昨年12月末、賛成463対107(棄権105)でこれを非難、EUの資金が差別行為などに用いられないよう監視するとポーランドに通告した。

LGBTは「輸入されたイデオロギー」

一連の論争は昨年2月、リベラル寄りのワルシャワ市長ラファウ・トゥジャスコフスキがLGBTの権利を保障する声明に署名したのが発端だ。市長がWHOのガイドラインに沿ってLGBTを学校の性教育に取り入れることを宣言すると、保守系の政治やメディアが激怒。

地元の保守活動家ヤセク・コトゥラは、「LGBTフリーゾーン」運動を率い、「LGBTは異常で、病んだ少数派が健全な社会の主流に自分たちを押しつける試みのように思える」とテレグラフに語っている。「熱心なクリスチャン」のコトゥラによると、LGBTは「雌鶏を襲うキツネ」であり「孫の世代のために西洋の退廃と俗化と戦っている」という。

ポーランドでは、国土の約3分の2、あるいは南東部を中心に80以上の自治体がいわゆる「LGBTフリーゾーン」を宣言している。これらの地域では、寛容を説く行為や、平等を推進するNGOなどへの資金援助が禁じられている。

また、与党「法と正義(PiS)」党首で前首相のヤロスワフ・カチンスキは、ワルシャワ市長の声明は「家族と子供たちに対する攻撃」であり、LGBTはポーランドを脅かす「輸入された」イデオロギーであると述べた。

7月には、ポーランド東部ビャウィストクでのゲイ・プライド・パレードでLGBTのアクティビストたちが行進を始めると、一部の観衆が石や卵を投げ始め、また汚い罵り言葉を叫んだ。警察は催涙ガスで対抗、30人以上が逮捕された。

さらに同月、与党派の雑誌『ガゼタ・ポルスカ』(発行部数11万)が、LGBTコミュニティを象徴するレインボーカラーの上に大きな黒いバツ印をのせ、「LGBTフリーゾーン」と書かれたステッカーを付録として発売。これについては野党や性的マイノリティの権利擁護団体だけでなく、駐ポーランド米大使からも非難の声が上がり、さらに、裁判所によって販売の一時差し止めが命じられた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中