ロックな台湾を熱狂させるロックな政治家、フレディ・リムって誰?
Same Stage, Different Feelings
議員とボーカルの共通点
ソニックの歌詞にあふれる台湾の神話や歴史は、どれもフレディにとって思い入れがあるテーマだが、実体験がないだけにこれまでは想像しながら歌詞を作ってきた。しかし議員になり、父親が死去し、子供が生まれるといった経験を経て、その複雑な感情や体験を基に作った18年のアルバム『政治』はそれまでのものとは違った。
「(政治的)課題をそのまま歌詞にするのは苦手だったが、これにはたくさんの感情を入れ込んだ。怒りや悲しみ、そしてわずかな希望も」『政治』には中国による圧力と高まる懸念を反映した曲が含まれている。「歴史の中に自分の気持ちによく似た感情を見つけた。聴き手も感情的に共感できる作品だ」と、フレディは言う。
デスメタルバンドのボーカルも議員も、フレディにとって本質は同じだ。「ツアーが始まると毎回20〜30回の公演がある。本気で感情を込めなければ何回も歌うのは難しいし、エネルギーを放つこともできない」。同様に、議員として自分の理念を本気で信じなければ、法案を通せないし、演説のエネルギーも不足する。
違いもある。音楽は縁のものであり、聴き手が理解できなかったり、気に入ってくれなかったりするならそれでもいい。しかし議員は「それでいい」が通用しないのだ。世界的に注目された同性婚法案の策定にも参加したが、起案するときは成立まで3年もかかるとは思わず、より広い視野で物事を進めるべきということを学んだ。
43歳のフレディはよく「若手」と言われる。だが、40代をまだ若手と言うなら、政界は社会より20年ほど老いていることになる。こんな政界がどうして若者のことを考えることができるのか──。
この局面を変えようとしたのも、フレディが政治家になるきっかけだった。「(自分は)音楽だけをやり続け、若者に政治家になれと説得するのは無理。僕が先に(政界に)進み、先頭に立って懸け橋となり、若者の居場所を開拓し、彼らが入れるように土台をつくり、変革する」。
今回、フレディの議会活動の補佐を務めていた27歳の賴品妤(ラ イ・ピンユィ)が立法委員に当選した。今の台湾の若者にとって、台湾は初めから独立した、中国とは違う国だ。
普段は政治への関心は少ないが、主権と自由が侵害されると抵抗の声を響かせる。歴史の重荷を背負った高齢者たちと違い、彼らにとってこれは正解・不正解がはっきりした簡単な問題だ。