最新記事

台湾のこれから

今、あえて台湾に勧める毛沢東戦術

TAIWAN NEEDS A MAOIST STRATEGY

2020年1月10日(金)12時20分
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学教授)

中国は制海権がなければ、水陸両用車両の上陸作戦を遂行できない。中国が勝ち目が薄いと判断して戦争から手を引くか、台湾海軍が米軍の到着までヤマアラシ作戦を行う陸軍と協力して中国の攻撃をしのげれば、重大な脅威は避けられる。

ヤマアラシ作戦が高性能な陸上兵器への依存を減らせるのと同様に、海洋拒否戦略を採用すれば大規模な海戦に必要な武器や作戦に頼らずに済ませられる。駆逐艦やフリゲート艦のような従来型の艦艇で公海に出て行っても、中国海軍に撃沈されるだけだ。対艦ミサイルを装備した小型水上戦闘艦を多数配備して勝負するほうが賢明だろう。

入り組んだ海岸線は、高速巡視艇が身を隠しながらパトロールするのに都合がいい地形だ。小さな漁村を拠点に活動すれば、漁船やレジャー用の船舶と見分けがつきにくい。

小型船は台湾の強みになるだろう。海岸線が入り組んだ北欧諸国でも、小型船は活躍する。演習の段階でも、台湾の指導層が満足する結果が得られたという。

幸いにも台湾は、毛沢東流の戦略の方向に動いている。2010年当時に台湾総統だった馬英九(マー・インチウ)は、海軍戦略の見直しを命じた。その際、どのように増強したかを見れば、彼が台湾海軍の弱点を正しく認識していたことが分かる。

見た目からして素晴らしいステルス性の高いコルベット艦の建造が今、進んでいる。いわば紅軍と軽歩兵部隊の海洋版だ。

そのコルベット艦に搭載するものとみられる国産ミサイルの破壊力は抜群だ。しかし小回りの利く高速巡視艇の建造が10隻ほどでは、中国軍の猛攻撃を遅らせるには心もとない。もっと数を増やす必要がある。

新たな戦略の採用は急務だ。人口約2300万の台湾が防衛に回せる資源には限界がある。昔ながらの高価な武器にふんだんに金をつぎ込みながら、最新鋭の武器も調達できるほどの余裕はない。従って、台湾の指導層は国内で受けがいいF16戦闘機や国産潜水艦などに資金を使うのではなく、限られた予算をヤマアラシ作戦と海洋拒否戦略に振り向けるべきだ。

戦略とは優先順位を決めて実行することだ。戦略実行に必要な武器の設計や建造にも同じことが言える。

台湾は軍事的弱者が勝つための武器に資源を集中投下すべきだ。考え得る限りの軍事作戦を実行しようとして武器を買いまくっても、どれも役に立たずに終わる。

戦略とは自制心の同義語でもある。来る総統選で再選を目指す蔡英文(ツァイ・インウェン)は、高性能・大型兵器を好む従来の台湾海軍文化を捨て、毛沢東流の積極防御の重要性を訴えるべきだ。

もっとも選挙期間中は、毛沢東の名前を出さないほうがいいかもしれないが。

From Foreign Policy Magazine

<1月14日号「台湾のこれから」特集より>

20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中