最新記事

台湾のこれから

今、あえて台湾に勧める毛沢東戦術

TAIWAN NEEDS A MAOIST STRATEGY

2020年1月10日(金)12時20分
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学教授)

magSR200110taiwanmaoist-2.jpg

2016年の環太平洋合同演習(リムパック)に参加した中国のフリゲート艦 PLA NAVY-UPI/AFLO

「積極防御」の大きなメリット

今も台湾の軍隊は、数の上では中国の人民解放軍に負けている。さらに技術や人的スキルの高さによって、軍艦や戦闘機、戦車の数で劣っている点を補うことができなくなった。台湾はアメリカの支持を受け、中国は軍事面で遅れているという仮定が揺らいでいる。

人民解放軍は優秀であり、今後さらに強さを増すだろう。圧倒的な兵力という利点も変わることはない。地政学的にみて優位にあるのは、台湾ではなく中国だ。

かつての中国共産党は、現在のような力を全く感じさせなかった。しかし毛は独自の軍事理論に磨きをかけて紅軍を導き、1949年に国共内戦で敵対した蒋介石の中国国民党軍を破った。国民党軍だけでなく、31年に満州を占領し、37年には中国に侵攻した日本軍に対しても勝利を導いている。

毛が唱えた「積極防御」の根底にあるのは、弱者が格上の敵を弱体化し、自らを優位に立たせるという考え方だ。弱者は人員を集めて組織化し、戦闘訓練を行い、力のある部隊を育成するための土台作りならできる。敵を少人数の部隊に分裂させ、相手側の連携を阻むこともできる。

力を分散させられれば、少人数の部隊を多数のゲリラ部隊で攻撃することもできる。軍全体で劣っても、場所によっては小規模な戦闘で勝つことも可能だろう。

今の台湾は毛沢東時代の中国とは違う。人民解放軍を下すという目的のために、人民解放軍が当時の敵を打ち破ったときのように経済的・軍事的資源を蓄えることはできない。その意味で「積極防衛」は、中国より台湾に適している。

今後も台湾が中国に軍事面で勝ることはなさそうだ。毛沢東の紅軍は国共内戦でも抗日戦争でも劣勢を跳ね返し、中国本土の共産化という大事業を成し遂げなくてはならなかった。だが台湾がいま行うべきなのは、中国に台湾海峡への攻撃を思いとどまらせる程度の防衛態勢を整えること。それがうまくいかなければ、米軍が救援に駆け付けるまでの間、時間稼ぎができればいい。

【参考記事】蔡英文「優勢」の台湾総統選、有権者の揺れる思いと投票基準

ヤマアラシ作戦と「海洋拒否」

数年前から、台湾に新たな作戦に乗り出すよう促す人々が出てきた。私の米海軍大学の同僚であるビル・マーレーは2008年、「ヤマアラシ作戦」の採用を台湾に勧めた。最新鋭の戦闘機や地上部隊に資金をつぎ込んでも、人民解放軍にはかなわない。それよりは陸上発射ミサイルなどの兵器を台湾全土に配備するほうが得策だというのだ。

こうした兵器は敵から攻撃を受けて破壊される可能性が低く、台湾海峡を越えてやって来る航空部隊を迎撃し、水陸両用車両の上陸を阻むことができる。つまり、針で外敵から身を守るヤマアラシのように台湾全土を防衛するというわけだ。

また、台湾海軍が中国海軍の周辺海域への進入を阻止するという考え方もある。「海洋拒否」と呼ばれるこのやり方は、昔から軍事的弱者が取ってきた戦略だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中