温暖化リスク、首都圏浸水の危機シナリオ 荒川氾濫なら被害90兆円規模に
2年続いた1兆円規模の水害
国土交通省統計によると、西日本豪雨なや複数の台風が襲来した18年の被害額は1961年の統計開始以来、3番目に大きな規模となる1兆3500億円にのぼった。19年は橋や道路など公共土木施設だけでも18年を超えたことが明らかとなっており、民間設備を含めた全体額では18年超えは確実と、政府幹部はみている。過去10年間で1兆円クラスの水害は起こっていなかったが、18年と19年は2年続けての大規模水害の年として記憶されることになりそうだ。
専門家が最も懸念するのは、東京下町5区を流れる大型河川の荒川が氾濫した場合の経済的影響だ。土木学会が18年6月にまとめた試算では、公共インフラや家屋、工場、機械など資産の被害額だけで36兆円。18年に過去最大の被害をもたらした西日本豪雨の1.1兆円とはけた違いの規模になる。
荒川流域でかつてないほどの巨大被害が懸念されるのは、浸水域の人口が120万人にのぼり、密集した住宅や中小企業の建物に加えて、公共インフラの破壊に伴う影響が多方面に波及するためだ。15年に起きた鬼怒川の氾濫をモデルとして復旧まで14カ月かかると想定した場合、資産被害に加えて、生産停滞や消費、輸出減少などの経済的被害額が26兆円になると試算されている。
しかし、関西大学社会安全研究センターの河田恵昭センター長は、荒川が氾濫した際の経済的被害額は90兆円にのぼると試算している。同氏は、荒川の復旧は鬼怒川と同様の期間では到底無理だと断言。過去の国内水害データをもとに算出すれば、荒川流域の復旧には数年が必要で、「都心近くを流れる荒川の場合、従来の氾濫とは比較にならない経済被害が生ずる」と警告する。
さらに、被災してしまうと、元の経済規模への復旧が容易でないことを示す事例もある。経済産業省の分析では、阪神淡路大震災後、神戸港が全国に占める輸出シェアはかつての12%前後から15年後には7.6%に低下。東日本大震災では、東北・関東の沿岸浸水地域の鉱工業生産額は4年経過後も減少が続いた。被災に伴う人口流出や産業構造の変化も影響している。