最新記事

温暖化対策

温暖化リスク、首都圏浸水の危機シナリオ 荒川氾濫なら被害90兆円規模に

2020年1月19日(日)14時00分

急激な気候変動が引き起こす大規模水害が、日本の新たな国家的リスクとして急浮上している。写真は千曲川が氾濫したときの長野県の様子。昨年10月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

急激な気候変動が引き起こす大規模水害が、日本の新たな国家的リスクとして急浮上している。2019年と18年は列島各地に台風や河川氾濫などによる甚大な被害が広がり、政府の統計によると、その経済的損失は過去50年超で3指に入る規模に達した。

今後も各地で深刻な豪雨禍が再発する懸念があり、特に日本経済の中枢である首都圏については、東京都心を流れる大型河川の荒川が氾濫した場合、家屋浸水やサプライチェーンのマヒなどによる経済的被害は累計で90兆円に上るとの試算もある。

政府と東京都は今年、産業界との協力で浸水回避の対策などに積極的に取り組む方針だが、実現までには数年ないし10年超の時間がかかる見通しで、大水害の再来に対応できない可能性も否定できない。

台風浸水、町工場から大企業まで

「浸水は想定外だった」。神奈川県を流れる多摩川の支流、平瀬川に面する地域の中小企業が集まる川崎北工業会の関係者は、昨年10月に東日本を襲った台風19号による水害を異口同音にこう振り返る。同工業会では加盟する180社のうち、16社が事業に支障をきたす規模の浸水被害を受けた。

その中の1社、半導体製造装置向け金属部品を手掛ける川崎市の甘利製作所では、台風が去って2カ月経った昨年12月になっても、1台2000万円のマシニングセンターなど、工場にある10台の機械のうち8台が動いていなかった。

同社の甘利治明専務によると、必要な部品交換の見積もり額は7500万円。しかし、稼働していない8台のうち、半数が修理できない可能性もあり、新規購入の場合は追加で8000万円が必要となる。操業復旧にかかる合計1億5000万程度の負担額は、同社の年商とほぼ同額だ。加えて従業員8名分の給与など、多額の運転資金ものしかかる。

修理を請け負う機械メーカーの派遣員も、他県の被災工場の復旧に手を取られ、1カ月に2日間のみの修理訪問が精一杯。1月からの出荷は50%程度に回復するのがやっとだという。

甘利氏は今春から商業化がスタートする5G(第5世代移動通信システム)サービス向けの需要に期待し、完全復旧に向けて行政や金融機関との調整に奔走している。「行政は(被害が起きた)原因の説明と今後の対策を話してほしい。それがなければこの場所に新たな設備を入れても無駄になってしまう」。新たな水害の再発への不安はぬぐえない。

浸水被害で生産が打撃を受けるのは町工場だけではない。マツダは、18年7月の豪雨で取引先の被災により操業停止に追い込まれ、自動車4万4000台などの生産に影響、約280億円の損失が生じた。

SUBARU(スバル)は、19年の台風19号で取引先の部品メーカーが浸水、部品調達に支障が出て、1万2500台の生産が影響を受けた。操業が4日半の停止で済んだのは、のべ500人の従業員が取引先の復旧応援に駆け付け、早期の操業再開を果たしたからだ。東日本大震災(2011年)での供給網寸断の教訓から、供給網の全容把握やリスク管理を徹底してきたことが奏功した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中