「保育園」のない中国に、100%日本式の保育施設をつくった上海女性
保護者を招いて行われた「暖嬰屋」のクリスマスパーティーに参加する王(2019年12月21日) ZHAO HAICHENG
<実は中国には0歳児から預けられる保育施設がほとんどない。そのため育児に苦労した若い母親が、2歳の子を連れ、日本にやって来た。提携パートナーを探すために――。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集より>
2016年3月、東京の私立保育園「愛嬰(あいえい)幼保学園」に2歳の女の子を連れた若い母親が中国の浙江省湖州市からやって来た。
母親の名は王佩瑭(ワン・ペイタン、33歳)。娘を生んでから、育児にかかりきりで自分のことを何もできなくなってしまったが、地元はもとより中国のどこを探しても乳幼児の保育施設がほとんどないのだという。
心身共に疲弊した彼女はこう考えていた。「同じような境遇の親は多いはず。0歳児から預けられる保育施設を中国で造れば、ふびんな親たちを解放してあげられる。必ず需要はある」
調べてみると、日本の保育施設が最も完成されていて先進的だと分かった。だから中国に共同で保育園を設立してくれる提携パートナーを日本で探し始めたが、王にとってこの愛嬰幼保学園は4園目。大阪や名古屋で既に3園に提携を断られていた。
応対した同学園の経営者は、那須暁雍(なす・しゃおよん)。偶然にも同じ中国浙江省出身の女性で、言葉の壁はなく、しかも5つの保育園を経営する実業家だ。王は「救世主が現れた」と期待を寄せた。
しかし、生後間もない自分の子(5人目の子供だ)の育児に専念したいから、と那須に断られる。これまで事業に力を注ぐあまり、自分自身の子供にあまり構ってやれなかったという思いがあるのだという。
それでも王は落胆しなかった。それから2年間、何度も来日し、那須の保育園でボランティアをし、自分は以前金融の仕事をしていて資金調達力もあるからと、那須を説得し続けた。しまいには耐えきれず、王は那須に向かって思わず叫んだ。
「中国のママがどんなに大変か知らないの? あなたは中国人で、日本で成功した企業家でもある。中国に帰って貢献すべきじゃないの!」
情熱はついに実った。2人が正式に契約したのは2018年3月。上海に「暖嬰屋国際幼保学園」を設立し、100%日本式の保育サービスを行うため、日本の保育資格(幼稚園教諭、保育士)を持つ日本人を5人雇った。園長は大学で幼児教育を専攻し、上海の日系幼稚園で十数年園長を務めた経験を持つ日本人だ。
保育園の内装は、日本から招いたデザイナーが担当した。カラフルな色彩で、ファンシーな模様やアニメキャラがあふれ返る中国の幼稚園と比べると、暖嬰屋の内装はさっぱりしていて落ち着いている。家具は全て木製で、部屋を取り囲むようにして置かれたラックの中の中日英3カ国語の絵本が目を引く。