最新記事

サッカー

エジルのウイグル弾圧批判が浮き彫りにした、中国とプレミアリーグの関係 

2019年12月18日(水)17時50分
モーゲンスタン陽子

しかし、最近の一連の政治発言は、同選手は実は多くの人が考えているようにナイーブではないことを示している、と独ツァイトは指摘する。とくに、「なぜならこれらの発言により、中国とのより良い関係を望んでいる彼のベストマン、エルドアンの足を踏んでいる」からだ。 

エルドアンだけではない。エジルのツイッターには、サッカー選手としてロナウドとネイマールに次いで3番目に多い2440万人のフォロワーがいるが、うち400万といわれる中国のファンを怒らせる可能性にも気づいていただろう。中国では実際に、エジルの名の入ったユニフォームを燃やす行為が報道されている。

そう考えると、エジルの一連の行動は軽率なものなどではなく、かなりの覚悟をもって発言していると考えるのが自然かもしれない。

「中立」から露見した金満主義

一方アーセナルは、エジル選手のコメントはあくまでも同選手の「個人的な見解」と強調、また「クラブとして、アーセナルは政治からは常に距離を置いている」と表明した。しかし、英ガーディアンのコラムニストはこれを「人権侵害についてコメントしないと発表したことで、アーセナルは非常に明快に政治に介入している -- 反対側の政治に」と揶揄している。

そもそも、各紙が指摘しているように、エジルの発言は厳密には「個人的な見解」と言えるのだろうか。中国によるイスラム系ウイグル族の弾圧や人権侵害に対するエジルの批判は、アメリカ、イギリス、カナダ、日本など23カ国を含む国連の見解に基づいている。また、国際サッカー連盟FIFAとそのメンバーは2017年、国際的な人権規範を尊重することを公に表明しており、アーセナルの「中立」を装った無関心はこれと矛盾する。

「理由は簡単だ。中国一国におけるプレミアリーグの放映権は年間5億6千万ポンドに値する」(ガーディアン) 

これに加え、シャツやグッズなどの収益金を考えたら、中国から流れ込む金は莫大だ。先日のエジル発言後の放送中止を受け、プレミアリーグはすでに戦々恐々としているようだ。プロサッカー界の商業主義については、ツァイトも批判している。

だが、著名なアスリートが政治的発言をするのはめずらしいことではない。近年では、米プロフットボールチームNFLの選手たちが、黒人に対する人種差別や暴力に抗議するために国歌演奏中に地面に膝をついたり、今年の女子サッカーW杯では、一躍時の人となったアメリカのミーガン・ラピノー選手が政権批判や、男女平等やLGBTの権利などを繰り返し主張したりした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者が訪米、2日に米特使と会

ワールド

お知らせー重複配信した記事を削除します

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中