エジルのウイグル弾圧批判が浮き彫りにした、中国とプレミアリーグの関係
しかし、最近の一連の政治発言は、同選手は実は多くの人が考えているようにナイーブではないことを示している、と独ツァイトは指摘する。とくに、「なぜならこれらの発言により、中国とのより良い関係を望んでいる彼のベストマン、エルドアンの足を踏んでいる」からだ。
エルドアンだけではない。エジルのツイッターには、サッカー選手としてロナウドとネイマールに次いで3番目に多い2440万人のフォロワーがいるが、うち400万といわれる中国のファンを怒らせる可能性にも気づいていただろう。中国では実際に、エジルの名の入ったユニフォームを燃やす行為が報道されている。
そう考えると、エジルの一連の行動は軽率なものなどではなく、かなりの覚悟をもって発言していると考えるのが自然かもしれない。
「中立」から露見した金満主義
一方アーセナルは、エジル選手のコメントはあくまでも同選手の「個人的な見解」と強調、また「クラブとして、アーセナルは政治からは常に距離を置いている」と表明した。しかし、英ガーディアンのコラムニストはこれを「人権侵害についてコメントしないと発表したことで、アーセナルは非常に明快に政治に介入している -- 反対側の政治に」と揶揄している。
そもそも、各紙が指摘しているように、エジルの発言は厳密には「個人的な見解」と言えるのだろうか。中国によるイスラム系ウイグル族の弾圧や人権侵害に対するエジルの批判は、アメリカ、イギリス、カナダ、日本など23カ国を含む国連の見解に基づいている。また、国際サッカー連盟FIFAとそのメンバーは2017年、国際的な人権規範を尊重することを公に表明しており、アーセナルの「中立」を装った無関心はこれと矛盾する。
「理由は簡単だ。中国一国におけるプレミアリーグの放映権は年間5億6千万ポンドに値する」(ガーディアン)
これに加え、シャツやグッズなどの収益金を考えたら、中国から流れ込む金は莫大だ。先日のエジル発言後の放送中止を受け、プレミアリーグはすでに戦々恐々としているようだ。プロサッカー界の商業主義については、ツァイトも批判している。
だが、著名なアスリートが政治的発言をするのはめずらしいことではない。近年では、米プロフットボールチームNFLの選手たちが、黒人に対する人種差別や暴力に抗議するために国歌演奏中に地面に膝をついたり、今年の女子サッカーW杯では、一躍時の人となったアメリカのミーガン・ラピノー選手が政権批判や、男女平等やLGBTの権利などを繰り返し主張したりした。